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ワケがわからないまま、俺は青野とふたりで電車に乗った。
運良く快速に乗れたので、学校まではあっという間。今日も車内はめちゃくちゃ混んでいて、青野の顔がすぐそばにある。
ちなみに、目はやっぱり緑色。なんでだよ、こいつ、すげーきれいな黒い目をしていたのに。
でも、よく見ると、他の乗客たちの目の色もほとんど緑だ。たまに青っぽいヤツもいるけど、あっちもこっちも緑、緑。黒なんてどこにもいやしない。
なあ、誰か教えてくれ。黒い目の人間、どこいった?
戸惑う俺をよそに、青野が「昨日の件ですが」と口を開いた。
「正直気乗りしませんが、応じても構いません。5時間目が自習になったので」
へ、自習?
ていうか「応じる」って何に?
「『半年記念日』とか、俺にしてみれば理解不能ですけど。まあ、そういうのを大事にする気持ちをないがしろにするつもりはありませんし」
いやいや、その前に「半年記念日」って何?
理解不能なのは、俺のほうなんですけど。
「それと、昨日は少し言い過ぎました。なんていうか……ついカッとなってしまって。あんたとケンカしたかったわけじゃなかったのに」
ケンカ? それに「あんた」?
待て待て、俺たちそんな近い間柄じゃないよな?
お前は妹の彼氏で、いちおう「顔見知り」ではあるものの、それ以上ではないわけで──
「ただ、やっぱり場所についてはどうかと思います。俺としては鍵がかかる場所であることが絶対条件です」
青野の目が、わずかに泳いだ。
「あんたは、そういうスリルがあるのが好きかもしれないですけど、俺は好きじゃないです。絶対に誰にも見られたくないです。正直、自宅以外でやるのはどうかと思うし」
「やるって何を?」
たまりかねて、つい訊ねてしまった。
「……は?」
「いや、だから、ええと……俺、お前と何か約束してたっけ?」
「何かって……」
青野が目を丸くしたところで、俺の背後のドアが開いた。
下車しようとしたサラリーマンが、ドア前に突っ立ったままの俺たちを忌々しげに押し退ける。やべ、邪魔になってる。俺は慌ててホームに下りた。もちろんドアの前を空けるためだ。
なのに、青野が乱暴な手つきで俺の腕を捕まえた。そのままグイグイ腕を引いて、俺をホームの端へ連れていく。
えっ、なんで? 俺たちの下車駅はあと2つ先だろ?
「とぼけてんですか」
振り向いた青野は、ドスのきいた声を発した。
「こっちは、あんたが駄々こねるから覚悟を決めてきたんっすよ」
「えっ」
「さっきも言いましたけど、俺は学校でやるのは好きじゃない。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ嫌なんです。なのにあんたが『半年記念日だから』『マンネリ防止だから』ってグダグダグダグダ、最後は半べそかいて──」
「いやいや、待って。ほんと待って!」
なにが記念日? なにが「マンネリ防止」?
しかも、半べそってどういうこと?
ていうか、さっきも聞いた気がするけど、そもそも、
「やるって、何を?」
再びぶつけたその質問に、青野はいよいよ凶悪な顔つきになった。
「マジでとぼけてんですか? それとも、俺とはもうやりたくないと?」
「いや、そんなつもりは……」
「ああ、わかった。その言葉を俺に言わせたいってことか。あんた、ほんと悪趣味だな。俺が恥ずかしがるとこが見たいんだろ」
「いやいや、ほんとにそんなつもりは……」
「じゃあ、お望みどおり言ってやりますよ」
青野は凶暴そうな眼差しのまま、大きく息を吸い込んだ。
「セッ──」
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