第3話

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 その日の夜。八尾の病室に顔を出すと「どうした?」って怪訝そうな目を向けられた。 「なんかシケたツラしてんな。またナナセに叱られたか?」 「叱られてねーよ!」 「じゃあ、青野──って、あいつはもう関係ないか」  ああ、そうだよ、そのとおり。  あいつとはもう1週間も口をきいていない。  今日の昼休みだって、俺はあいつが学食にいることに気づいていたけど、あいつはどうだか。たぶん気づいていないんじゃねーの? 「ナナセと仲良くやってるみたいだし」 「ん? なんか言ったか?」 「なんでもねぇ、ただの独り言!」  それよりさ、と話題を変えるように俺は来客用の丸椅子を引き寄せた。 「俺に話があるんだろ。何?」 「おお、それそれ!」  八尾は棚に手をのばすと、充電中のスマホをアダプターごと引っこ抜いた。 「あのさ、この1週間、考えてみたんだよ。お前が元の世界に戻る方法」 「マジで!? やっぱ頼りになるなぁ、お前」 「いや、まだ考えがまとまったわけじゃねーから。あくまでいろいろ調べてる途中。でさ」  スマホの画面をダブルタップすると、八尾はメモ帳アプリを表示させた。 「ここらで、もう一度、お前の証言を検証しなおしたいんだよ。この間は一気にあれこれ聞いちまったせいで、細かいとこは流しちまったからさ、一度ちゃんと確認しておきたくて」 「おう、わかった」  たしかにそういうのは必要だよな。  よし、なんでも聞いてくれ。元の世界に戻るためなら、俺、いくらでも話すから。 「まず、お前がこっちの世界に来たきっかけだけど──お前自身は、心当たりがないんだったよな?」 「ああ。朝、目が覚めたら勝手に世界が変わってました──って感じ」  ただ「絶対にそうだ」とまでは言い切れない。なぜなら、こっちに来る前日の記憶が一部失われているからだ。 「だから、その間に何か起きた可能性はあるんだよな。単に俺が思い出せないだけで」 「なるほど。ちなみに、前日のことはどこまで覚えているんだ?」 「昼休みくらいまでかな……向こうのお前と昼飯を食ったんだよ。で、それ以降の記憶がない。すこんと消えて空白になってる感じ」 「……なるほど」  八尾は、悩ましげに眉をひそめた。 「その空白の部分だけどよ、自力で思い出そうとしてみたか?」 「してみた。けど全然ダメ」 「でも、ちょっとだけ思い出したことがあるって言ってただろ。階段がどうとか……」 「ああ──『西階段の踊り場』な」  あれは、思い出したっていうより急に頭に浮かんだんだよな。学食で唐揚げ定食を食いながらあれこれ考えていたら、いきなりチリチリッて画質の悪い画像が浮かんできた、みたいな? 「けどさ、実際に踊り場に行ってみてもどうもピンとこなくて。だから、俺の勘違いだったのかも」 「でも、まだ少しは気になっているんだろ」 「それは、まあ……いちおうは……」 「『階段』『踊り場』──となると……」  八尾の目が、キラン!と輝いた。 「よし、試しに転がり落ちてみろ!」
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