第1話

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 ゴオオオオンッとけっこうな大音量で、背後を通勤快速が通過していった。それでも、青野が発したその単語はしっかりはっきり俺の耳に届いた。 「嘘だろ……」  俺はよろめいた。頭のなかは真っ白だった。  だって、なんだよ、その「セッ(自主規制)」って。  俺もお前も男だよな? そもそもお前、妹の彼氏だよな?  つい早口で問い詰めてしまった俺に、青野は「は? なに言ってんっすか」とさらに凶暴そうな声をあげた。 「なんで俺が星井と付き合わないといけないんっすか」 「いや、でも『妹さんと付き合います』って、俺に挨拶(あいさつ)に……」 「なんっすか、それ。なんの夢っすか。まだ寝ぼけてんっすか」  ものすごい力で(あご)を捕まれる。  痛い痛い痛い! なにこれ、なんで俺こんなことされてんの? 「それともアレっすか。俺を煽って楽しんでるんっすか」  してない! そんなことしてないって! 「だったら乗ってやりますよ。今日はあんたが言うところの『付き合って半年記念日』らしいですしね」  混乱まっただ中の俺に、青野は顔を近づけてきた。  やばい、やられる──青野に食われる!  そこで俺の生存本能が発動した。気づいたら、俺はやつの股間を蹴り上げていた。  青野は、声にならない声をあげた。そのまま背中を折りたたみ、崩れるようにうずくまる。  ごめん、ほんとごめん。  でも今のお前、怖すぎだし、ワケわかんないし、俺の知ってる「青野」じゃないし、なにより── 「お前は妹の彼氏だし!」  折しも、次の電車がホームに入ってきた。  ただの快速。つまりこの駅に停車する。  青野はうずくまったまま、未だ動けない。  これ幸いとばかりに、俺はその電車に飛び乗った。ものすごい目で睨んでいる青野を、そのままホームに置き去りにして。
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