第5話

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 その後、俺は何度か西階段の踊り場に足を運んでみた。 (もし、あの白昼夢が現実に起きた出来事だとしたら)  こっちの俺は、階段12段分の高さをものともせず、ここから飛び降りたことになる。それも「勢い」と「青野への当てつけ」のためだけに。 「……いや、無理だろ」  下の床にきれいに着地できれば、足が痺れるだけで済むかもしれない。  でも、少しでもバランスを崩したり、途中の段差に足を引っかけるようなことがあれば、良くて打撲、悪ければ捻挫か骨折、さらに悪ければ命に関わる大怪我を負いかねない。 「『瞑想』だけで何とかならねぇかなぁ」  ボヤいたそばから、先日の青野の姿が頭をかすめた。  ナナセがコンビニから戻ってくるまで、あいつはずっとうなだれていた。そんなあいつに、俺がしてやれたことは何ひとつなかった。  結局、俺たちが再び入れ替わるしかないんだ。  そうすれば、みんな万々歳。俺は元の世界に戻れるし、青野もこっちの世界の俺と再会できる。 (そう、俺が飛び降りることさえできれば)  階下を見下ろし、ごくんと喉を鳴らしたそのときだ。 「だからさぁ、なんでかって聞いてんの!」  いかにも「苛ついてます」って感じの女子の声。ずいぶん荒れてんなぁ。最上階のここまで聞こえてくるって、相当な大声じゃん。  一方、それに対する声は聞こえてこない。聞こえてくるのは、複数の女子の「は?」「なに言ってんの?」「説明になってない」みたいな声ばかりだ。 (これ、ヤバいんじゃねーの)  明らかに、複数の女子が「たったひとり」に詰め寄ってるパターンじゃん。  さて、どうするか。このままスルーはできない。とはいえ、下手に割り込むと、却って怒りをあおりかねない。  やるなら慎重に、状況を見極めてからじゃないと。  息を潜めて、俺は階段を下りていく。不穏なぶつかりあいは、どうやら2階の廊下で行われているようだ。  そういえば、前にも似たようなことがあったな。ええと……アレだ、青野が清楚ちゃんに告白されたとき。あのときも、たしか偶然見かけて、俺は「気づかれたらヤバい」ってそっと逃げ出して── 「あんたさぁ、まさかとは思うけど、まだ星井に未練あるわけ?」  ──え、俺の名前? しかも「未練」?  なんとなく嫌な予感を抱きつつも、俺は2階の廊下を覗き込んだ。 (うわ、最悪だ)  見なければよかった。複数の女子に詰め寄られていたのは、あろうことか俺の「元カレ」だったのである。
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