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「あ〜青野〜、お待たせ〜」
やばい、声が裏返った。
俺、下手くそか! 恥ずかしすぎるだろ!
「……は? なんで星井がここにいんの」
金髪ロングが振り返る。見覚えのある顔だ。たぶん俺と同じ学年の誰かだろう。でも、名前までは知らない。こっちの俺は、どうやら知り合いみたいだけど。
「いやぁ、ええと……だからさ、俺、青野と待ち合わせしていて」
「なんで?」
「あんたたち別れたはずだよね?」
「違うの? 別れてないの?」
「いや、それは、その……」
別れたには別れたけど──そう続けようとしたところで、慌てて口を閉ざす。
だって今、そんなことをバカ正直に答えたらどうなるか。「だったら関係ないじゃん」「部外者は口出しするな」「大事な話をしてるから、さっさと立ち去れ」──うん、間違いなく総攻撃を食らうよな。
けど、じゃあ、どうすれば……
焦った俺は、ふと思いついた拙い嘘を勢いのまま吐き出した。
「俺たちよりを戻したから!」
「は……?」
「俺と青野! また付き合うことになったから!」
さあ、来い! これなら引き下がるしかないよな!?
けれども、数秒ほどの沈黙の後、返ってきたのはさらにドスを効かせた「はぁぁぁぁっ!?」だった。
「なにそれ聞いてない!」
「ふざけんな!」
「なにしてくれてんだよ、この泥棒猫が!」
いや、「泥棒猫」って。そういうのは、恋人がいる相手に手を出したときにぶつける言葉であって……
「は? 由芽たちはこれから付き合う予定だったんだよ!」
「ほんとそれ!」
「由芽をなんだと思ってんの!?」
青野に向けられていたはずの女子たちの怒りが、一斉に俺に向けられる。
くそ、だから嫌だったんだよ、他人のケンカに口出しするのは。しかも、青野のときより当たりがキツいし。3倍返しや4倍返しなんてとっくに越えてるし。
つーか、青野も青野だ。なんで口を開けたまま突っ立ってんだよ。そりゃ、突然の嘘で驚いただろうけどさ、そろそろ我に返ってこっちに加勢してくれよ。
というわけで、今やすっかり四面楚歌状態の俺。
そんななか、まさかのボブカット女子が振り絞るような声をあげた。
「もういい」
「へっ?」
「もういいから……みんな、星井くんを責めないであげて!」
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