156人が本棚に入れています
本棚に追加
金髪ロングたちの罵声が、一斉に止んだ。
皆の視線を集めたボブカット女子──由芽ちゃんは、これでもかと目を潤ませると、ゆっくり俺たちを見まわした。
「みんなありがとう、由芽のために怒ってくれて」
「そんなの当然じゃん! 友達が傷つけられたんだから」
「そうだよ、由芽! こんなの当たり前だよ!」
「ありがとう。でも私……青野くんのことはもう諦める」
お、マジか!
「私、青野くんから卒業する!」
う、ううん? 「卒業」? なんで今、そのワード?
同じことを思ったのか、青野も「入学された覚えがないんですけど」とぼそりとこぼす。
けれども、金髪ロングたちの耳には届いていない。「由芽ぇぇ」「本当にそれでいいの?」「マジで? 後悔しない?」なんて大騒ぎだ。
やがて、取り巻きたちを背負う形で、由芽ちゃんが青野の前に立った。
「青野くん、今までありがとう。本当に……本当に大好きでした!」
「……はぁ」
青野、愛想! 気持ちはわかるけど、もうちょっと態度を考えて!
けれども、由芽ちゃんも金髪ロングたちも自分たちの世界にどっぷりらしく、青野の仏頂面に気づかない。くるりときびすを返した由芽ちゃんを、他の女子たちが追いかけた。
あっという間に嵐は去り、気づけば俺と青野だけがその場に取り残されていた。
「なんか……すごい集団だったな」
少女マンガか? 恋愛ドラマか?
いや、前半はヤンキー漫画っぽかったな。金髪ロングたちの詰め方は、どう考えても女子高生のそれじゃない。
ぽかんとしたままの俺の隣で、青野が「うぜぇ」と吐き捨てた。
「ドラマの主人公気取りかよ」
ほんと、それな! ぶっちゃけ、俺も同じようなことを思ってた!
つい笑ってしまった俺を、青野はじろりと睨みつけた。
「いや、笑い事じゃないでしょ、あんた」
「え?」
「どうするんです、あんな嘘ついて」
──嘘? 俺、なにか言ったっけ?
「言ったでしょう。『俺とよりを戻した』って」
「……あっ!」
最初のコメントを投稿しよう!