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第6話
現在、俺と青野の関係性はなかなかカオスな状態だ。
なので、ここらで一度整理してみようと思う。
まず、俺たちは「よりを戻した」ってことになっている。
けれども、それはあくまで表向きの話。実際は「元カレ」のままで、付き合いを再開したわけじゃない。
ただ、当分の間はそのフリをする必要がある。なぜなら、俺たちがよりを戻したことを理由に、ボブカット由芽ちゃんは青野をあきらめたからだ。それが実は嘘でしたとバレた日には、由芽ちゃんの取り巻きである金髪ロングたちに何をされるかわかったものじゃない。
かくして、俺たちはひとまず恋人同士に戻ったふりをしているわけだけど──
厄介なことに、どうやら青野はまだ俺のことが好きらしい。いや、正確には「こっちの世界の俺」のことなんだけどさ。
なので、俺としては、あいつと「恋人っぽいこと」をするのは極力避けたい。デートはもちろん、校内でふたりきりになるのもできれば回避したいくらいで──
「待っていましたよ、夏樹さん」
考えていたそばから、元カレの登場だ。
マジか、まさかの正面玄関で待ち伏せかよ。これじゃ、逃げたくても逃げられねーじゃん。
「さあ、帰りましょう」
「お、おう」
本音は「なんで?」と問いたいところだったけど、周囲の目がある以上、それもできない。
かくして好奇心まじりの視線にさらされながら、俺は青野と学校をあとにした。さすがに手をつながれそうになったときは、全力で拒否したけれど。
「ヤバイ……なんでこんなことになっちまったんだろう」
「それは、ご自分の胸に手をあてて考えてみれば良いのでは?」
「だよなぁ。わかってる、わかってるんだけどさぁ」
ほんと、考えなしだったよな、俺。なんでもっとましな嘘をつかなかったんだろう。
ちらりと隣を見上げると、当たり前のように青野と目があった。夕日のオレンジ色が混ざったこいつの目は、今日も形容しがたい色をしている。
「で、どうします?」
「なにが?」
「このあとです。せっかくですし、久しぶりに駅前のラッキーバーガーにでも……」
「ああ、悪い。俺、用事があるから」
するりとお断りの言葉が出てきたのは、これが言い訳ではなく、ただの事実だったからだ。
青野は「はぁ」となんとも言えない顔つきになった。
「用事ですか。こんな時間から」
「おう、悪いな」
「……いえ」
そこからしばらく無言になったものの、青野としてはまだ諦めきれなかったらしい。
「あの……」
「ん?」
「その用事、付きあってあげてもいいっすけど」
「いらねーよ。つーか、なんで上から目線なんだよ」
俺としては当然の返答だと思うんだけど、青野は不満そうに口を結んだ。
ほんと生意気だよな、こっちの青野。俺が元いた世界の青野なら、こういうとき「夏樹さんさえよろしければ、お付き合いしましょうか」くらい丁寧だぞ。
まあ、いいけど。とりあえず、ちゃんと伝えとくか。
「あのさ。行き先、病院なんだよ」
「病院?」
「そう。八尾の見舞い」
そんなの着いてきたって退屈だろ? お前と八尾って、せいぜい顔見知り程度の仲だし。
そう続けようとして「ひっ」と声が出た。青野が、あまりにも不穏な空気を発していたから。
「そうですか、八尾さんの見舞い──」
「あ、青野?」
「そうですか……八尾さんの……」
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