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何度も八尾の名前を繰り返す青野にただならぬものを感じた俺は、慌てて「いやいや」と言い添えた。
「見舞いだぞ? 本当にただの見舞いなんだって」
「それはどういう意味ですか。見舞いに『ただ』と『そうじゃないもの』があるということですか?」
「違ぇよ!」
どうして、お前はときどきバグるんだよ。こういうときこそ、落ち着いて冷静になれって!
「わかりました。じゃあ、俺も同行します」
「それはダメ!」
「なぜですか!」
「それは、その……とにかくいろいろあるんだよ!」
次回の満月に向けての作戦会議とか、あいつが仕入れた「面白い話」のこととか。
(それに……できればこいつのことも相談したいし)
うっかり「よりを戻した」と嘘をついたこと。それが噂となってあっという間に広まっちまったこと。それ以外にも、ちょっと……いろいろ……お前といると身の危険を感じることとか。
「とにかく、お前は来たらダメ! 絶対にダメ!」
「ですからその理由を……」
「理由は言えない!」
言えるわけないだろ。お前のことを相談したいから着いてこられたら困る、だなんて。
けれども「言わない」=「伝わらない」だ。当然、青野は不信感を募らせたらしい。
「怪しいですね」
「何も怪しくねーよ。親友の見舞いに行くだけだっての」
「……どうだか」
探るように向けられた目を、「負けてたまるか」とばかりに睨みかえす。
そこから沈黙──5秒経過、10秒経過。
で、先に視線を外したのは青野だった。ようやく折れる気になったのか、ため息まじりに「わかりました」と呟いた。
よし、勝った! Winner、俺!
心のなかでガッツポーズをしたところで、駅に到着した。
「じゃあ、俺こっちだから。またな!」
「ええ……また」
改札を通った先のコンコースで別れ、俺は上り方面のホームに向かう。
なんとなく青野の視線が追いかけてきているような気がしたけれど、きっと勘違いだ。そう決めつけて、俺は振り返ることなく階段をあがっていった。
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