第6話

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 たっぷり沈黙したあと、俺の口からこぼれたのは「え、マジで」だった。 「おう、マジマジ……つーか、その前にまずは『怪談話』をしたほうがいいよな」  怪談? 場所が西階段なだけに? 「いや、ギャグじゃねぇから。……あのよ、今、1年の間でこんな怪談話が広まってるの、知ってるか?」  八尾の話によると「西階段の一番上の踊り場から、男の叫び声が聞こえる。けれども、実際に行ってみるとそこには誰もいない」というものらしい。 「その噂が広まったのは1ヶ月近く前。つーことで、出所を探ってみたんだ。そしたら、大元は俺のバイト仲間と同クラの女子の体験談だったみたいでさ」  なんでもその日、彼女は好きな男子に告白するために3階の踊り場付近で待機していたらしい。 「すると、最上階の踊り場から言い争うような声が聞こえてきたんだと。『飛び降りるぞ』みたいな物騒なやりとりがあって、そのあと2年の男子生徒がひとりだけ下りてきて……さらにそのあと、残された男子生徒の『バカ野郎、うわああああ』って声が聞こえてきたらしい」 「へ、へぇ」  なんとなく、どこかで聞いたことのある展開だけど──それで? 「あまりにもすごい声だったから、彼女は驚いて駆けつけたわけだ。少し前に『飛び降りるぞ』って発言もあったから放っておけなかったんだろうな。ところが、声が聞こえたはずの最上階には──」 「誰もいなかった?」 「そのとおり」  なるほど、そりゃ噂になるわ。どう考えてもホラーだもんな。 「どう思う? この話」 「どうもこうも──叫んだのは、たぶんこっちの世界の俺だろ」  で、そのあと忽然(こつぜん)と消えちまった。  ああ、くそ……嫌な展開だ。 「じゃあ、お前も俺の考察に同意するよな?」 「う……」 「こっちのお前は、青野とケンカした勢いで、本当に踊り場から飛び降りた。なのに、下に着地することなく姿を消した。それが意味するところは?」 「……わかってる」  それが、俺たちが入れ替わるきっかけになった可能性は高い。  しょうがねぇ、それは認めてやる。  けど、俺の考察も聞いてくれないか。 「たしかに、飛び降りるのはきっかけになったかもしれねぇ……つーか、少なくともこっちの俺にとってはそうだったんだろうよ」  けどさ、俺もそうだとは限らないよな? 「というと?」 「俺自身は『踊り場から飛び降りる』なんて行為は絶対にしない。そんな度胸ねーもん。でも、俺はこっちの世界に来ちまった。つまり……」 「つまり?」 「3つの可能性が考えられるんだよ」
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