第6話

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「お前っ……なんでここに!?」  すっかり声が裏返っている俺に対して、青野は小憎らしいほど()裕綽々(ゆうしゃくしゃく)だ。 「『なんで』って、もちろん用事があったからでしょう」 「用事ってなんの!?」 「そうですね……『あんたと一緒に帰る』といったところでしょうか」  いやいや、帰んねーよ! それ、断ったよな!? 「断られましたが、了承はしていません」 「嘘つけ。『わかりました』って言っただろ」 「それは『理解した』という意味です。了承したという意味ではありません」  くそ、この屁理(へり)(くつ)野郎め! 「で、八尾さんと何をしていたんですか」 「ふつうにおしゃべりだよ。それ以外にあるかよ」 「そうですか……おしゃべりだけで1時間3分……」 「そんなのふつうだろ!」 「俺にとってはそうですね。……ただ、飽き性のあんたは違うとばかり」  ──うん? どういうこと? 「俺と付き合っていたころのあんたは会話が30分も続かなくて、すぐに『そろそろやろうぜ』と俺のズボンのファスナーを……」 「うわああああっ」  ここが病院だということも忘れて、俺は大声をあげてしまった。  バカ! マジでバカ!  会計窓口のお姉さんが、ものすごい顔でこっちを見ている。  ごめんなさい。でも、それもこれも全部こいつのせいなんです。 「おま……お前、よくもこんなとこでそんな話……っ」 「大丈夫ですよ。どうせ誰も聞いていません」 「そんなのわかんないだろ。ほんとやめろよ、マジで」  とにかく来い、と青野の腕を引っ張る。  そこからひたすら早足で歩いて、病院の正面玄関を後にした。
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