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吸い込んだ息は、自然と腹のあたりに貯まっていく。
そこでいったん息を止めると、今度は意識してゆっくり細く吐き出していく。
まずは、この繰り返し。
(吸って……吐いて……吸って……)
意識が、呼吸に向かいはじめる。肩の力がどんどん抜けてゆく。
前回と同じ──いろいろな音が、俺の耳に飛び込んでくる。誰かの足音、空調の流れ、下手くそなトランペットの音色、隣にいる親友の息づかい。たぶん、視界がシャットアウトされたことで、聴覚が研ぎ澄まされるんだろうな。じゃないと、身のまわりの危険を察知できないし。
でも、意識が沈めば沈むほど、そうした音すらも遠くなってゆく。深い沼にずぶずぶと飲み込まれてゆくようなこの感じ──このあたりまでは「いつもの瞑想」と同じだ。
(違うのは、このあと……)
ふわ、と頭のてっぺんを引っ張られる。
ああ……これだ。この感覚だ。
いつもなら沈むばかりの意識が、ふわふわと上に向かいはじめる。
真っ白にしたはずの脳内にキラキラと光が降り注ぎはじめた。
(いける……)
今度こそ、うまくいく。
だって、この感覚は特別だ。
身体が軽い。まるで「意識」だけになってしまったみたいに──あるいは魂だけ? まあ、どっちでもいい。このまま元の世界に戻れるのなら。
もう呼吸を意識することもない。あとは導かれるまま、光を追いかけるだけだ。
(そう、このまま……)
のぼって、のぼって……元の世界へ──
──「夏樹さん!」
その声は、突然ビンッと脳内に響いた。
──「よかった……生きてた」
──「あんた今朝から様子がおかしくて、なんだか嫌な胸騒ぎがして」
やめろよ、なんだよ! なんでこのタイミングで、お前の声がよみがえるんだよ!
瞑想を続けたまま、俺は必死に脳内の面影を振り払おうとする。
なのに、次から次へと、あいつの言葉ばかりがよみがえる。
──「今回はつけてくれないんですね」
──「前回は強引に唾つけたくせに」
──「ほら、つなぎましょう。手」
──「大丈夫です。どうせ誰も見ていやしません」
ああ、くそ!
話しかけるな! 邪魔をするな!
今日こそ、俺は戻るんだ。
元の、俺がいるべき世界に──
──「夏樹さん……どうします、これから」
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