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「……っ」
思わず目を開けた俺は、そのままひどく咳き込んだ。
「えっ、星井!?」
「くそ……くそ……っ」
なんだよ、青野! なんで邪魔するんだよ!
あと少しだったのに……お前の声さえ聞こえなければ、俺は元の世界に戻れたかもしれないのに──
(いや、違う)
今回、青野は何もしていない。
俺の脳みそが、勝手に青野の声を再生しただけだ。
咳き込みすぎて涙目になった俺は、勢いのまま立ちあがった。
「飛び降りる」
「えっ」
「瞑想はダメだ……ここから飛び降りる!」
「バカ、よせ!」
八尾が、ものすごい力で俺の足にしがみついた。
「とりあえず落ち着け! 話を聞かせろ!」
「うるせぇ、飛び降りるって言ってんだろう!」
瞑想が失敗した場合は、ここから飛び降りる──もともとそういう約束だったはずだ。
なのに、八尾はそれをさせてくれない。俺の両足を捕まえて「落ち着け」と繰り返すばかりだ。
なんだよお前、あんなに「飛び降り」を推奨していたくせに。この期に及んで、なんで止めようとするんだよ。
結局、根負けしたのは俺の方だった。
「わかった、飛び降りねぇから……いったん手を離してくれ」
「本当だな?」
「本当だって……これじゃ座れねぇよ」
八尾は、まだ疑わしそうな目を向けたまま、ゆっくりと両腕を離した。
俺は、半ば脱力した状態で再びぺたりと階段に座り込んだ。
なんでこうなっちまったのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、はっきりしているのは──うまくいきかけた瞑想が、青野を思い出したとたん失敗した、ということだ。
「ありえねぇ」
なんで、あのタイミングで青野を思い出しちまったんだろう。
ナナセでも両親でも、山本や八尾でもない。
(青野のことを、どうして俺は……)
うなだれる俺の背を、八尾が乱暴な手つきでこすった。
「大丈夫か? なにがあった?」
「瞑想……マジでうまくいきそうだったんだ」
「おう」
「なのに寸前のところで……いろいろ思い出しちまって……」
具体的な内容は濁したつもりだったのに、どういうわけか八尾には伝わってしまったらしい。
「青野のことか?」
「……っ」
「やっぱりな。お前、途中からすげー苦しそうだったもんな」
大きな猫目が、俺を覗き込んでくる。
「あのよ。前に訊いたこと、もう一度訊くけど……お前、本当に元の世界に戻りたいのか?」
「……」
「それって、こっちの青野とは会えなくなるってことだけど」
そんなのわかってる。わかっていたはずだ。
なのに、俺は即答できなかった。
かわりに、ただうつむくばかりだった。
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