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第7話
「あ、こら! 星井!」
教室に戻るなり、後ろの席の山本から消しゴムを投げつけられた。
「なんで5時間目サボってんだよ。おかげで、めちゃくちゃ当てられちまっただろ」
「え……ああ、ごめん」
そっか、もう5時間目の授業終わってたのか。
やばいな、初めてサボっちまった。俺、見た目がこんなで誤解されやすいから、授業とかちゃんと受けるようにしてたのに。
「……星井、どうした?」
俺があまりにもしょんぼりしていたせいか、山本は面食らったような顔つきになった。
「もしかして保健室に行ってたのか? だったら……」
「大丈夫、具合悪いとかじゃねーから」
それよりあとでノート見せて、と頼んで席に着く。
程なくして6時間目の授業がはじまった。担当教師によるスペイン継承戦争についての説明が始まったものの、俺の頭のなかはあいかわらず数時間前の出来事でいっぱいだ。
(失敗した)
最後まで瞑想することができなかった。
かといって飛び降りることも叶わなかった。
(なんでだよ)
なんで俺、あのタイミングで青野のことを思い出しちまったんだよ。あれさえなければ、今頃元の世界に戻れていたはずだったのに。
(ああ、くそ)
俺のバカ。ヘタレ。
しかも、今回はそれだけじゃない。
八尾からぶつけられた、あの問いかけ。
──「お前、本当に元の世界に戻りたいのか?」
瞑想する前の俺なら、すぐに答えられたはずだ。「当然。元の世界に戻りたいに決まってる」って。
でも、あのときの俺は答えられなかった。うつむいて、親友に顔を見られないようにするので精一杯だった。
(つーか、今もわかんねーよ)
本当の俺は、どうしたいんだろう。元の世界に戻りたくねーのかな。
そんなに、青野と離れたくねーのかな。
だとしたら、そう思う理由はなんなのだろう。
ただの感傷? あいつと、ちょっと濃い時間を過ごしちまったから、名残惜しくなっちまったとか?
そんなことをグダグダ考えながらも、本当は自分が決定的な答えを避けていることに気づいている。
いや、でも──それだけはあり得ない。考えたくない。
だって、俺は「こっちの俺」とは違うんだ。
なのに──青野に恋をしているかもしれない、だなんて。
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