第7話

2/18
153人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
 俺だって、ごくふつうの高校生だ。当然、これまで好きになった子は何人かいた。  初恋の相手は、同じマンションの中学生。当時小学生だった俺は、彼女が引っ越すと知った日、トイレに閉じこもって何時間もシクシク泣き続けて、最後はドライバーでむりやり鍵をあけた母ちゃんにしこたま怒られたものだった。  その次に好きになったのは同じクラスの女子で、3人目もやっぱり同クラの女子。4人目は隣のクラスの子で、5人目の子とはちょっといい雰囲気になりもした。まあ、野球部のエースにあっさりかっさわれたんだけど。  高校生になってからは、同じ委員会の子をひそかにいいなと思っていた。けど、3年生になってすぐに彼女には付き合ってるやつがいるって知った。まあ、そうだよな。あの子、すげー可愛かったし。  それ以降、特に想いを寄せる相手はいない。妹のナナセが、青野と仲良くやっているのをうらやましく思いつつも「俺は大学からが本番だ」って受験勉強に精を出していたのだ。  それなのに今、妹の彼氏として認識していた男に、毎日ぐるぐる振りまわされている。  この気持ちは、恋なのか。そう問われても、すぐには答えられそうにない。  なにせ、これまで好きになった女の子たちと、青野はあまりにも違いすぎる。  当たり前だけど性別が違うし、好みのタイプかと問われれば「うーん」といったところ。つーか、そもそも「男の好み」なんて考えたことがない。同じ理由で「好みの顔か」って訊かれても「なんだそれ」って感じだし。  あと、こっちの世界の青野って生意気なんだよな。たまに可愛いところもあるけど、基本的に生意気。  だから、いろいろ釈然としない。だって俺、優しくて素直な子が好きだったはずだし。  そんなことをグダグダ考えているうちに、6時間目の授業が終わり、放課後が訪れた。  スマホを取り出すと、メッセージが2件。  1件目は八尾からで「放課後どうする?」──  この「どうする」には、おそらくいろいろな意味があるんだろう。「瞑想に再チャレンジするか?」だったり「相談にのったほうがいいか」だったり。  そうだよな、まだ満月だから「再チャレンジ」は有りなんだよな。  けど、今はどうしてもそんな気になれない。  かといって、この心情を八尾に打ち明ける気にもなれない。だって、まだ混乱中だ。なにを相談すればいいのか、自分でもわからないんだよ。  というわけで、八尾には「サンキュ」のスタンプを送ったあと「今日はもう帰る」と打ち込んだ。すぐに既読がついて「了解」のスタンプが返ってきた。  八尾とのTLを閉じると、俺はもう1件のメッセージを確認した。  送信者は青野だ。「急用ができたのでお先に失礼します」──  正直ホッとした。今、青野と顔を合わせるのは気が進まなかった。どんな顔をすればいいのかわからないし、挙動不審になりそうな気もする。  あるいは恨み言をぶつけたくなるかも。「お前のせいで、元の世界に戻りそびれたじゃねーか」なんて。 (まあ、一晩あれば落ち着くか)  今日は、さっさと家に帰って寝ちまおう。こういう日は、とにかく寝るに限る。どうせ起きていてもろくなことを考えないし、ぐっすり眠って朝になれば、気分もスッキリしているはず──  なんて考えがいかに甘いかって気づかされるのは、翌朝、駅で青野と顔を合わせたときだった。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!