第7話

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 いつものことだけど、この時間帯の車内はずいぶん混雑している。  そのせいで、隣に並ぶ青野との距離はどうしたって近くなってしまう。 「どうしました?」 「え?」 「なんか今日元気ないっすね。寝不足ですか?」 「……そんなことねぇよ」  ただ否定するだけだったのに、妙な間があいてしまう。 「むしろ寝過ぎなくらい寝たっての」 「じゃあ、寝過ぎて頭がボケてるってことですか」 「うるせぇ、ボケてねぇよ」  つっこみはいれられるくせに、やっぱり青野の顔をまともに見ることはできない。もちろん、キラキラのせいもあるけど、それ以上に── (顔の距離が近ぇんだよ!)  なのに後ろの会社員、さっきから背中を押してきやがって。これじゃ、青野とさらに接近しちまうだろうが。 (やっぱり好きなのかな、こいつのこと)  じゃないと、こんなふうに意識しないよな。  それに、キラキラして見えるはずもない。……いや、まだ網膜剥(もうまくはく)()の可能性も捨ててねぇけど。  ようやく、背中を押す気配が消えた。快速列車が大きめな駅に到着したせいだ。ここは乗り降りする客がめちゃくちゃ多い。後ろにいたサラリーマンも、たぶんこの駅で下車するんだろう。  ホッとしたのも束の間、青野の手が俺の背中にまわされた。 「邪魔になってますよ」  こちらへ、というように背中の手に力がこめられる。  抱き寄せられた俺は、この上なく青野と密着した。あたたかな身体。以前おんぶしてもらったときと同じ、スッと刺激するような整髪剤のにおい。 「……っ」  ヤバいヤバいヤバい、心臓が壊れる! 鼓動が速すぎて、今にも破裂してしまいそうだ。  なのに、どうすればいいのかわからない。  自分がどうしたいのかもわからない。 「あ、青野……」 「はい?」 「俺、あの……忘れ物したの思い出したから!」  とっさに思いついた嘘を口走って、俺はむりやり電車から降りた。乗車しようとしていた大学生とぶつかって舌打ちされたけど、構うもんか。こっちは生命の危機なんだ。 (マジで、このままだと心臓がおかしくなるっての!)  夏樹さん、と呼ばれた気がしたけど、俺は振り返らなかった。というか、振り返ることができなかった。電車を下りるとき、勢いがつきすぎてホームに膝をついちまったから。  発着メロディが終わり、背中でドアの閉まる音を聞く。  走り去る快速列車を見送って、俺はのろのろと立ちあがった。  ようやく鼓動が落ち着いてきた──にも関わらず、まだ頬が熱かった。  ヤバい、どうしよう。これってもう確定だよな? (俺、青野のことが好きなんだ)
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