第7話

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 結局、この日はがっつり遅刻をして、2時間目から授業を受けることになった。昨日に引き続き、2度目のサボりだ。まずいな、このままだと外見どおりのチャラい人生まっしぐらになっちまう。 「星井、大丈夫か?」  昨日の今日ってこともあって、山本は心配してくれているようだ。 「マジで具合悪いとか、そんなんじゃねーんだよな?」 「ああ、大丈夫」  ちなみに、山本もけっこうモテ系の外見なんだけど、まったくもってキラキラして見えない。つまり、あのキラキラは青野限定──目の病気じゃなかったってわけだ。 (まあ、わかってたけどさ)  厄介なことになった。  どうしよう、まさか青野に恋しちまうなんて。  思えば、これまで俺は好きな子と想いが通じ合ったことがない。どの子も俺以外のやつを好きになって、俺はいつも身を引いてばかり。だから、お付き合いどころか「好き」って伝えたことすらない。そうなる前に失恋が確定しちまうから。  で、今回の青野だ。  驚いたことに、あいつは俺のことが好きらしい。けど、それはあくまで「こっちの世界の俺」のこと。あいつが好きなのは、自由奔放で「わがままプリンセス」な俺なんだ。 (でも、青野は気づいていない)  別人の「俺」のことを、自分が好きになった「俺」だと勘違いしている。で、がんがんアプローチをかけてくる。  これ、どうすりゃいいんだ? (やっぱり……突き放すべきだよな)  そうじゃないと不誠実だ。  あいつが好きになったのは俺じゃない。そのことを、俺自身がいちばんよく知っているんだから。  と、机のなかのスマホがブルッと音をたてた。表示されたのはメッセージアプリの通知。送信者は八尾だ。  ──「落ち着いたか?」  ああ、くそ。やっぱりこいつは俺の親友だ。昨日からずっと俺がグラグラしてんの、よくわかってんだろうな。  2時間目がはじまるまで、まだ少し時間がある。俺はすばやくメッセージを打ち込んだ。  ──「話がしたい」  ──「いつ?」  昼休み──と返そうとして、俺はその3文字を削除した。  ──「放課後。ラッキーバーガーで」  松葉杖で寄り道はしんどいかなと思ったけど、あっさり「了解」って返ってきた。  ありがと、八尾。心のなかで手をあわせると、今度は青野のTLを開いた。  ──「ごめん、今日は用事できたから帰れない」  既読がついたのは昼休み。でも、青野からのリアクションは何もなかった。
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