第一話

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第一話

 命日は悲しい日というけれど、私のお父さんの命日は、私にとって永遠の歴史書に刻み込みたいほど、特別な日だ。  窓越しからしんしんと降り落ちる粉雪に背を向けて、二月十五日の日めくりカレンダーの数字をゆっくりとなぞった。ふと、やりどころの失ったかじかんだ指先が、ストン、と棚の上の写真の縁に添えられる。  歯の欠けた口で笑う幼い私と、私と同じアヒルの形をした唇を開いて破顔するお父さん。  確か、乳歯が抜けた恥ずかしさのあまり頑なに口を開こうとしなかった私に、お父さんが芸人顔負けの変顔を連発してくるものだから、思わずどっと吹き出してお母さんに狙われてしまった不本意なシャッターチャンス。だけど、お父さんに似た笑い方ね、とお母さんに言われてから、いつの日か黒歴史から私の秘蔵の宝物となった。 「お父さん。今日はお月さま、綺麗に見えるかな」  見えるに決まってんだろ。    写真のお父さんのアヒル形の口から、笑いと共に囁かれたような気がした。  今夜も夜空を見上げよう。  それがお父さんとの、お父さんが死んだ日の、約束だ。
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