第2章 友達にはほど遠い

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「その、糸尾……アユミちゃん?」   「アユムな。分かっててわざと間違えんなよ」   「そ。それさ、7組の奴だろ。メガネかけてる。よく知ってるよ。あんま……関わったことねーけどな。真面目クンだし、超頭いいんだぜ」  健吾の言う〝真面目〟とは、あまり良い意味合いではない。頭が硬い、つまらなそうな奴と称したいわけだ。  歩は、人の顔と名前を覚えるのが苦手だと言っていた。それに、高尚な話題を出すわけでもなかったし、偉そうなところもなかった。  だから、健吾をしてそう言わしめるとは意外だった。 「ゲームセンターとか、似合わねぇよなぁ。図鑑とか自己啓発本とか読んでそ」  健吾が耳の穴をほじりながら言う。  顔はそこそこイケてるのに、ほんと残念な男だよ、お前は。   「案外話のわかるヤツだったよ。クレーンゲームも太鼓の達人も上手かったし」 「へえ……」  健吾は、ほんの一瞬、すべての感情を消し去ったような暗い目をした。  こいつは時折、ぞくっとするほど冷ややかな表情を浮かべることがある。そういうとき、俺は息を詰めて、空気のように気配を消すことにしている。   「ま。どうでもいい話だけどな。あーあ。オレもさぁ、こうやってお前とバカ話したり遊んでられんの今のうちだけかもしんねー」   「……なんで?」   「二年になったら本格的に大学受験に向けて勉強するから。親、それなりに厳しいんだよね。勉強しろって直接言われるわけじゃないけど、無言で圧力かけてくる感じ。高校入学してから今まで、反発してサボりまくってたけど、そろそろ誤魔化しきれなくなってきたしなぁ」    そういえば、いつだったか聞いたことがある。健吾の親は二人ともT大で、兄貴は医学部。だから当然、自分もしかるべきところへ進学するのが当たり前だと思われているのだと。  その話のときも、彼は自身の心を押し殺すような顔をしていた。 「勉強か……。嫌いじゃねぇけど、いつになったら解放されるんだかな」  健吾の言葉に、俺は知らずうち生唾を飲み込んだ。  俺にとって健吾は、〝気の合うクラスメイト〟のはずだ。なのになぜ、俺はこいつといるとこんなに緊張するんだろう?
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