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「ったく……結局、俺もお前もいいように振りまわされただけじゃん」
怒りをぶつける先がなくて、矛先は自然と、目の前の友人に向かう。
「歩はさ、こうなることーー引っ越すかもしれないってこと、最初から分かってたんだろ? だから、不快な噂が出まわったときも平然としてたんだ」
「平然と、してた?」
歩の表情が曇る。
俺はしまったと思ったが、口から出てしまったものは容易に撤回できない。
「翔平には、あのときのおれがそう見えた? もしそう見えたんだとしたら……それはお前がいたからだよ、翔平。おれが諦めてたことを、お前は絶対諦めなかったじゃないか」
俺の苛立ちが伝染したように、友人の声が大きくなる。
「親が離婚するだろうってことは、けっこう前から薄々、分かってたよ。おれは母さんをひとりにしておけなかったし、万一のときは母方の実家で世話になれば、経済的にも少しは楽になるって頭の片隅にあった。だから……ここでの生活は長くないだろうなって思ってたよ、実際。けどさあ」
歩は悔しそうにこちらを睨んだ。
「おれだって、おれの自由が欲しかったんだよ。
翔平とオンラインゲームの中で知り合って、こいつなら本当のおれを見てくれるかもしれないって思っちゃったんだよ。誰か一人でもいいから、友達って呼べる存在が欲しかった。
欲が出たんだ。
どうせ切れてしまう縁でも……そうやって、馬鹿みたいに突っかかってくる誰かがいてくれたらいいなって。だからおれは、後悔してない。お前を巻き込んだこと」
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