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何を言ってるんだ。逆だろう?
俺を巻き込んだんじゃなくて、お前が巻き込まれたんだろう。
「ムカつく」
自分の吐き捨てた言葉が、耳に痛い。
「まじでムカつくわ、お前」
こんな罵り、小学生みたいだと思ったが、このときは当てつけるように繰り返すことしかできなかった。
本当は俺だって、歩が一番の友達になるかもしれないと思っていた。
時間を経ても風化しない、奇跡に近い関係。
歩とはじめてLINEのアドレスを交換した日、予感めいたものがあった。そのときの俺の直感は、きっと間違いじゃない。
こんな酷い気持ちにさせられても、今更、友達になるんじゃなかった、なんて思えない。
歩と会わなければーーきっと俺は、狩野や健吾の本心に触れることもなく、当たり障りのない関係の中で、彼らにイジられ卑屈になっていただろう。
泉さんとは一定の距離を置いたまま、彼女はただ美しいだけの雪の結晶というイメージで、苦手意識を盾にろくに話もしなかった。
谷田さんが俺に対して抱いてくれた好意に気付くこともなく、また俺自身も、甘い以上に辛い恋があるなんて知らずに済んだはずだ。
そして、そんな高校生活は、たまらなく退屈だっただろう。
だから俺だってやっぱり、後悔していない。
歩と友達になったこと。
学年末考査を終え、3月24日の終業式を迎えたあと、歩の席は7組から消えた。まるではじめから存在しなかったみたいに。
俺は、春休みにようやく、ケータイを買い替えてもらった。最新機種なのに、思ったほど嬉しくなかった。
歩のいなくなった日常は、俺が想像していたより、ずっと普通に過ぎていった。
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