第9章 ロスト・ワールド

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 何を言ってるんだ。逆だろう?  俺を巻き込んだんじゃなくて、お前が巻き込まれたんだろう。 「ムカつく」  自分の吐き捨てた言葉が、耳に痛い。 「まじでムカつくわ、お前」  こんな罵り、小学生みたいだと思ったが、このときは当てつけるように繰り返すことしかできなかった。  本当は俺だって、歩が一番の友達になるかもしれないと思っていた。  時間を経ても風化しない、奇跡に近い関係。  歩とはじめてLINEのアドレスを交換した日、予感めいたものがあった。そのときの俺の直感は、きっと間違いじゃない。  こんな酷い気持ちにさせられても、今更、友達になるんじゃなかった、なんて思えない。  歩と会わなければーーきっと俺は、狩野や健吾の本心に触れることもなく、当たり障りのない関係の中で、彼らにイジられ卑屈になっていただろう。  泉さんとは一定の距離を置いたまま、彼女はただ美しいだけの雪の結晶というイメージで、苦手意識を盾にろくに話もしなかった。  谷田さんが俺に対して抱いてくれた好意に気付くこともなく、また俺自身も、甘い以上に辛い恋があるなんて知らずに済んだはずだ。  そして、そんな高校生活は、たまらなく退屈だっただろう。  だから俺だってやっぱり、後悔していない。  歩と友達になったこと。  学年末考査を終え、3月24日の終業式を迎えたあと、歩の席は7組から消えた。まるではじめから存在しなかったみたいに。  俺は、春休みにようやく、ケータイを買い替えてもらった。最新機種なのに、思ったほど嬉しくなかった。  歩のいなくなった日常は、俺が想像していたより、ずっと普通に過ぎていった。
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