第2章 友達にはほど遠い

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「なーなーなー、ケン〜、翔ちん。ちょっと聞いてくんない?」  騒がしい気配に顔を上げると、まるで空気を読まない人間が飛び込んで来た。  普段はうざったいとしか思えないそのクラスメイトの存在が、今はありがたい。   「さっき、そこの廊下でさァ、うちのクラスの(いずみ)ちゃんと、7組の谷田(やた)ちゃんがさ? 冬休み、駅前に新しくできたダイニングカフェ行かないかって話してたんだよ。で、『僕も行きたいなぁ』ってノリで言ったらOKもらっちゃって。あの氷の女王の泉ちゃんだよ。すごくない」  頭のてっぺんからつま先まで浮かれきったそいつの名は、狩野慎(かりのしん)。  ふわふわの猫っ毛。  目尻もどことなく三毛猫っぽくて、動きもせわしない。  名前は「慎ましい」と書くけれど、実際の性格は真逆。図々しいを絵に描いたような男だが、裏表がなく、あいつは我が道を行けばいいと、クラスメイトからも諦められている。 「ふぅん、そりゃ良かったな」 「行ってこいよ。マドンナ二人と一緒だなんて、誰かに刺されるかもな?」  俺と健吾は、わざわざ自慢しに来たのかと鼻白んだ。 「待て待て早まんなよ。君たちにも幸せのお裾分けをしてしんぜよう。この僕と美女二人を連れて、一緒にカフェに行こうぜ!」 「はぁ? なんでだよ。約束したのお前だけだろ」 「まさかOKもらえるなんて思ってなかったからさぁ。頼むよぉ」 「狩野。お前、あからさまに泉さんのこと好き過ぎなんだよ。ちょっとは自重しろよ」 「んー無理! おっぱいデカいは正義だから! な、僕の引き立て役になってよぉ」  教室でおっぱいとか言うな。  本人まだ、すぐそこの廊下にいるんだぞ?  俺が発言したわけでもないのに、周囲の目と耳が気になってしまうのは、自分の性格上仕方のないことだった。
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