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間章 水の星で見たものは
「は……? 東チスイ地方の洞窟に棲むセエレを、討伐しろっての? 俺ひとりで」
「さよう」
「いやいやいや。だってあの洞窟の突入条件は、サブクエストNo.22達成後。八人のフルパーティメンバーかつ、全員がレベル50以上だったよな? 俺、ちゃんと攻略サイトで調べてんだぞ。それを……俺ひとりで行けと」
「あー大丈夫じゃあそのへんはどうとでもなるからの。とにかく早く行って来なさい、制限時間は」
「制限時間まであんのかよ!? てか話通じねぇじいさんだな。ぜんっぜん大丈夫じゃねぇから!」
その日提示されたクエストは、あまりにもはちゃめちゃだったので、すぐに夢の中だと気付いた。
周りを海と城壁に囲まれた、美しい都市。
赤茶色の屋根が連なるその街の一角にて、俺は怪しげな老人に声をかけられた。それはもう強制イベントのごとく吸引力で、逃れることができなかった。
そして、あれよあれよという間に、セエレ討伐戦へ行かされる流れになった。
こんな適当なシナリオは、俺の夢以外にはあり得ない。
だから、じいさんの言葉に従う必要なんかどこにもなくて、俺はひたすら、早く目覚めてくれと願った。
嫌な夢を見たときの必勝法。
ぎゅっと強くまぶたを閉じて、それから思い切り開く。強い意志を持ってこの動作を繰り返すと、目を覚ますことができる。
成功率は五分五分だが、夢の中でこれが夢だと気付いたとき、俺はよくそうしている。
「あっそうじゃ。弱っちぃお前さんへのせめてもの餞別として、すでに転送ゲートを開いておいたからの。無駄な抵抗は辞めて旅立ちなさい」
じいさんが、にいと黄ばんだ歯を見せた。
「え……」
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