間章 水の星で見たものは

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 いきなり肩を突き飛ばされたかと思うと、気持ちの悪い浮遊感があった。内臓が揺さぶられ吐きそうになりーー。  次の瞬間にはひとり、深い森の中に放り出されていた。 「ったあ……ちくしょー」  転送ゲートによって飛ばされた先は、老人の言っていた東チスイ地方の森。少し視線を上に向ければ、急斜の岩肌を伝う幾筋もの水。滝なのか、川なのか判別がつかない。  振り返ると、暗く大口を開けた洞窟があり、俺の二の腕に鳥肌がたった。  あそこに入るのか、今から。  ゲームキャラクターじゃなくて、俺自身が足を踏み入れるとなるとためらいが生じる。  ここで抵抗して目覚める努力をしても良かったが、難儀なことに、俺はこの夢の続きを見たいと感じはじめていた。 「進んでみるか、一か八か」  意を決して踏み込んでみる。  暗いし怖い。  やっぱり何かが間違っている。  何が間違ってるかって、明らかにおかしいのは俺の装備だ。  貧相……というより場違い。学制服の上に黒いローブを羽織り、背中には序盤の基本装備のクリスタルロッド。防具といえば、魔法防御率5%上昇のイヤリングをひとつ、耳につけているだけだ。  これでは、やられてこいと言われているようなものだった。この状態で洞窟に足を踏み入れるなんて、正気じゃない。 「あいつだって。ミーターだっていないのに……」  呟いたとき、洞窟の天井が星空のように光った。そういえばここには、青白く光る幼虫がいるんだっけ。  明かりが灯ったことで、洞窟の内部が多少把握しやすくなった。鍾乳洞や石筍がいたるところに見えて、夢のくせに、ひんやりとした空気が伝わってくるようだ。
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