間章 水の星で見たものは

3/3
前へ
/138ページ
次へ
「セエレか……人型の悪魔だったよな、確か。前に攻略動画で見たことあんだよなぁ……どうやって倒すんだっけ」  足元をぴちゃぴちゃ言わせながら、道なりに進む。  満天の空のような幻想的な光景だが、俺だったらこんなジメジメしたところに住みたいとは思わない。セエレは、誰かが討伐に来るまで、じっとここで待っているんだろうか。敵ながら少し哀れに感じてしまう。  ふと、視界の先を何かが横切った。  一瞬だが俺と同じ、ローブを羽織った人間がいたように見えた。  別パーティのプレイヤーか?  いや、通常、ソロクエストをこなしている最中に、協力要請もなしに他のパーティと鉢合わせすることなんてあり得ない。 (だとしたら、いったい誰だ?)  俺は反射的に走り出していた。  右へ、左へ、ローブをひるがえして逃げるその影を追う。洞窟はもう一本道ではなくて、複雑に枝分かれしはじめている。それでも俺は、深く深く、地の底へ潜っていく。  泥が飛び足元を汚すのも構わず走る。 「待てこら」  やっと追いついた俺は、そいつのフードをはぎ取った。  振り返ったのは、若い男。  目の前にいたそいつの顔は、俺と瓜二つだった。  似ているとかそういうレベルじゃない。  俺そのものだ。  しかも、この生気のない目。  たまに現れては俺を俯瞰していた、実体のない俺自身じゃないか。  どうして……なぜ、こんなところに。  まさか、こいつがセエレの正体?  あのじいさんは俺に、俺自身を倒せとふっかけてきやがったのか。 「誰が。あんなやつの言うとおりにするか」  俺は虚ろな目をしたそいつの手首を掴んだ。 「おいお前。こんな薄気味悪いところ、とっとと脱出しよう。出口……はちょっと分かんなくなっちまったけど、たぶんこっちだ。はぐれんなよ」  とにかく上へ向かって行けば、なんとかなる気がする。今来た道を引き返せばいいのだ。  誰とも知らないじいさんの言いなりになんか、なってたまるか。  俺たちはここを出てみせる。二人で、日の当たる場所まで歩いていく。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加