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「セエレか……人型の悪魔だったよな、確か。前に攻略動画で見たことあんだよなぁ……どうやって倒すんだっけ」
足元をぴちゃぴちゃ言わせながら、道なりに進む。
満天の空のような幻想的な光景だが、俺だったらこんなジメジメしたところに住みたいとは思わない。セエレは、誰かが討伐に来るまで、じっとここで待っているんだろうか。敵ながら少し哀れに感じてしまう。
ふと、視界の先を何かが横切った。
一瞬だが俺と同じ、ローブを羽織った人間がいたように見えた。
別パーティのプレイヤーか?
いや、通常、ソロクエストをこなしている最中に、協力要請もなしに他のパーティと鉢合わせすることなんてあり得ない。
(だとしたら、いったい誰だ?)
俺は反射的に走り出していた。
右へ、左へ、ローブをひるがえして逃げるその影を追う。洞窟はもう一本道ではなくて、複雑に枝分かれしはじめている。それでも俺は、深く深く、地の底へ潜っていく。
泥が飛び足元を汚すのも構わず走る。
「待てこら」
やっと追いついた俺は、そいつのフードをはぎ取った。
振り返ったのは、若い男。
目の前にいたそいつの顔は、俺と瓜二つだった。
似ているとかそういうレベルじゃない。
俺そのものだ。
しかも、この生気のない目。
たまに現れては俺を俯瞰していた、実体のない俺自身じゃないか。
どうして……なぜ、こんなところに。
まさか、こいつがセエレの正体?
あのじいさんは俺に、俺自身を倒せとふっかけてきやがったのか。
「誰が。あんなやつの言うとおりにするか」
俺は虚ろな目をしたそいつの手首を掴んだ。
「おいお前。こんな薄気味悪いところ、とっとと脱出しよう。出口……はちょっと分かんなくなっちまったけど、たぶんこっちだ。はぐれんなよ」
とにかく上へ向かって行けば、なんとかなる気がする。今来た道を引き返せばいいのだ。
誰とも知らないじいさんの言いなりになんか、なってたまるか。
俺たちはここを出てみせる。二人で、日の当たる場所まで歩いていく。
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