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終章 Good Luck, Have Fun
梅雨入りを控えた、ある晴れた午後の日。
学生会館の二階でホットサンドを食べながら、俺はスマートフォンと睨めっこする。
求人情報サイトでエリア、職種、勤務時間を絞り込み、ついでに「学生歓迎」にチェックをつけて検索。そこに記載されたPR文にざっと目を通す。
【ハンディでの注文とりやレジ操作がないので簡単&安心!】
【未経験の方でも充実した研修と先輩の指導ですぐにお仕事に慣れることができます】
【スタッフみんな和気あいあい、働きやすさ抜群です♬】
どの仕事も耳に心地よいフレーズばかりが強調されている。逆にうさんくさく感じてしまい、俺はため息をついた。
「へえ、月嶋、もうバイト探してるんだ?」
大学に入学してから、ふた月が経った。
学生食堂の片隅で悩む俺に声をかけてきたのは、同期の寺田という男。
コーヒーを片手に、俺のスマホをのぞき込むそいつとは、学科が同じで学籍番号が近いためよく話すようになった。
「履修登録したばっかで、生活リズム掴む前にシフト入れて平気なのかぁ?」
「もうこの時期からバイトはじめてるやつだっているだろ? 俺、早く一人暮らししたいんだよ。家に帰ると母親と妹がうるせえから」
「お前んちの妹……確か今高校生だっけ? なあ、芸能人で例えたら誰似」
「あー、あいつはダメだぞ。彼氏いるから」
「うるせえ妹なのに?」
「うるせえのが好きだっつう奇特な男もいるんだよ」
「なんだつまんねぇな。……おっと、オレそろそろサークル行かなきゃだわ。またな」
「おー」
寺田が慌ただしく遠ざかって行くのを、片手を上げて見送った。
再び、スマートフォンに視線を落とす。
スクロールしても終わらない求人情報一覧に嫌気がさしてくる。
自分がどんな仕事をしたいのか、ぼんやりとした希望はあるものの、細かい条件を確認すると粗を探してブラウザバックしてしまう。
俺の場合、無鉄砲に飛び込むと痛い目を見ることが分かりきっているため、初めてのバイトは慎重に選びたい。しかし石橋を叩きすぎても身動きがとれないのだ。
頭を抱えていると、スマホのディスプレイ表示がパッと切り替わった。
着信画面に表示された名前は、《狩野 慎》。
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