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電話をかけてきた相手のふてぶてしい面を思い浮かべ、一瞬、出るか出ないか迷う。
仮に、この電話をとらずに無視した場合、あとで不在着信の履歴が凄まじいことになる。それはもう、限りなくリアルに想像できる。
だから俺は仕方なく、スマホの通話ボタンを押した。
『翔ちん僕僕、ひっさしぶりー! そろそろこの狩野慎さんの存在が恋しくなってきた頃だろー?』
「今、俺忙しいんだけど、切っていい?」
『いいわけないだろ、ちょっと待って10秒で用件伝えるから』
冗談で言ったのだが、狩野が本当に慌てた声を出すので笑ってしまう。
狩野は俺に電話を切られてはたまらないと、本気の10秒弾丸トークを繰り広げ、この夏の計画について話してくれた。
「同窓会旅行ねえ……つっても高校卒業してからまだ2ヶ月しか経ってねーし、仲のいい面子しか集まらないんじゃ、ただの旅行だろ?」
『名前なんてどっちでもいいじゃーん。楽しければさ! 僕が幹事やるし、行き先は近場に設定するつもりだから、翔ちんも参加してよぉ』
「そりゃ、構わねーけどさ。メンバーは?」
『まだ集めてる最中だけど、ケンは来るってよ』
「健吾は今、大阪で下宿してるじゃん」
『来月の三連休なら身体が空くって! ていうかケンがまさか、関西の大学に行くとは思わなかったなー』
「だな。学校決めるとき親と揉めたらしいけど、自分で決めたあいつは偉いよ。兄貴が味方になってくれたのが大きかったらしい。健吾の兄貴、優しそうな人だったもんな」
『ふうん。あいつの兄弟ってだけで、なんかイカつそうなイメージだけど。てか翔ちん、ケンの兄ちゃんに会ったことあるんだ?』
狩野は健吾の家庭事情を知らないから、あっけらかんとした口調で言う。
それに対して俺は、「まあいろいろと」と笑って言葉を濁した。
健吾はきっと両親から離れ、しがらみから逃れられて開放感に満ちあふれているんだろう。友人の明るい表情が目に浮かび、俺の口元も自然とほころんだ。
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