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『そうだ。あとお花ちゃん二人も誘っていいだろ? ヤローばっかで遊び歩いてもなんも面白くねーからな!』
狩野の物言いは本当に明け透けだ。
男女差別もなんのその。女の前では地に膝をついて愛を乞うが、男に対してはそのへんの草でも食っていろと言わんばかりだ。
「もう、好きにしろよ。てか狩野、この間、彼女できたって言ってなかったっけ?」
電話の奥で狩野がふっと笑う気配がした。
『よくぞ聞いてくれました! 四つ年上のお姉さまだぜえ。保育士してて超美人なの』
「まじか。彼女ってお前の空想上のイキモノだと思ってたわ。しかも相手は社会人かよ……ホント年上キラーだな。そんなら、余計な目移りすんなよ?」
『あったり前! こう見えても僕って一途だからさー。あ、でもそれと僕のマドンナちゃんとは別! 憧れは永遠なんだよなぁ』
頼むから、二股とかやめてくれよ?
まあ、あの氷の女王様がなびくとは到底、思えないけど。
いや、もう氷の女王様という呼び方はやめておこう。
彼女たちと接するとき、俺の心に訪れるのは冷たく寂しい冬なんかじゃない。桜の花のひとひら、ひとひらを抱きしめるような、優しい気持ちでいるのだから。
『そういえばさ、翔ちんは最近はどおなの? 遅咲きの春ってやつは来ましたかー?』
自分が幸せだと、途端に他人にお節介を焼き出すんだな。俺はうんざりして声をとがらせた。
「お前のそうやってマウントとろうとするとこ、まじで嫌い」
『マウントじゃないって、本気で心配してんの。なんだかんだ言って、翔ちんのことは気に入ってんのよ、僕。幸せになって欲しいって思うわけ』
「急になんだよ。狩野に心配されるほど落ちてねぇから。……じゃ、とりあえず来月の三連休だよな。予定空けとく。メンバー集まったら教えて」
それだけ言うと、問答無用で通話を切る。
騒がしい声がぷつんと途切れると同時に、俺の口から大きなため息がこぼれた。
電話越しに話すだけで相手の生気を吸いとるなんて、狩野の多弁はある種才能だ。
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