第2章 友達にはほど遠い

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 普段の俺なら、まあそれくらい行ってやるかと気軽に応じたかもしれない。狩野の誘いというところにやや不安を覚えるものの、泉さんや谷田さんと話せる場というのは、なかなか魅力的だ。  しかし、今の俺は機嫌が悪かった。(あゆむ)の件で散々からかわれたあとに、進んで女子と関わりたいとは思わなかった。   「俺はパス」  狩野にはっきりと伝えてやる。   「翔ちーん、なんでだよぉ」 「むしろなんで俺がついてかなきゃならないんだ。関係ないだろ」 「ところがなぁ、関係あるんだよ月嶋翔平クン。泉ちゃんが『月嶋くんも一緒ならいいわ』って言ってくれたんだよなぁ」  狩野の下手くそな女性声に、鳥肌が立った。 「はあ? なんで俺……」  泉真冬(いずみまふゆ)とは同じ3組のクラスメイトだが、現時点でほとんど接点はない。彼女に関して知っていることといえば、吹奏楽部の期待のルーキーで、10人すれ違ったら8人が振り返るほどの美人だということだけだ。  むしろ泉さんの友人である、谷田(やた)のほうが馴染み深い。谷田さんは、俺と同じ緑沢中学校出身だったからだ。 「マジ、どうして翔ちん名指しなのかは知らないし、知りたくもないけどぉ」 「勘繰るなよ。ほんと何もないから」  女の嫉妬はこわいと言う。  だが侮るなかれ。男の嫉妬だって十分こわい。  なんで翔ちんなんかが名指しされてるんだ、という狩野の粘着質な眼差しが、俺の横から突き刺さってくるのだ。  冬休み、本当にこのメンツで、ダイニングカフェに行くのだろうか。  想像するだけで、かき氷機か何かでメンタルをガリガリと削られるような心地がした。
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