第2章 友達にはほど遠い

5/13
前へ
/138ページ
次へ
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎  あまり楽しみじゃない日に限って、軽やかに跳ぶようにやって来るのはなぜだろう。冬休みに入り、俺たちは約束通りその店に集まることになった。  Y駅から徒歩7分の場所にある、この秋新規オープンした「カフェ&ダイニング trèmolo(トレモロ)」  本格的な窯焼きピザやパンケーキ、パスタやカレーが楽しめるという触れ込みで、オープンからひと月以上経った今でも、事前に予約しなければ長時間待たされるという。  開放感あふれる広々とした内観。  壁や天井、テーブルや椅子の材質はヒノキを基調としており、ふんわりと落ち着く香りが漂う。加えて、大きなガラス窓からは明るい陽が差し込み、冬でも息苦しさを感じさせない。  来店客の8割が女性。残り2割の男性客は、ほとんどが彼女の付き添いだった。  周囲を見渡せば、どの客も運ばれてくる食事を前にスマートフォンを構えている。写真におさめたものを、InstagramやFacebookに投稿して話題をつくろうとしているに違いない。 「で、どぉして僕の泉ちゃんが来れなくなったわけ!?」  予約までして席を確保したのに! とまあまあ大きな声で喚き散らしているのは、言わずもがな狩野である。  そんな哀れな男を、俺と健吾の二人がかりでなだめていた。   「いや、だから普通に風邪だろ? 狩野の理想の女王サマなのは分かるけど、風邪くらい引かせてやれよ」  ちょっと苛立ちはじめた健吾が強い口調で言う。   「泉ちゃんが来ないってなったら、谷田ちゃんも急に都合が悪くなったって言うしさあ。女ってなんでそぉなんだろ」   「お前だって、女子の中に男ひとりだったら普通に気まずいだろうが」   「いや、僕は全然気にしないよ?」  もういっそ狩野のキャラは清々しい。  
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加