第2章 友達にはほど遠い

7/13
前へ
/138ページ
次へ
 狩野や健吾が語る〝月嶋翔平〟には、中身なんてない。炎上した芸能人と同じ。ただ、その場が盛り上がればいいだけ。  それに気付いてからは、俺はときどき変な感覚にとらわれる。幽体離脱して、意識だけの俺が、俺自身を俯瞰するような感覚だ。  俺は俺を見下ろすほうであり、見下ろされるほうでもある。どちらも俺で、どちらの意識も持っている。  何やってるんだ、俺。  どうしてここにいるんだ。  その〝役目〟は俺じゃなきゃいけないのか?  早く家に帰らせろ、ひとりにしてくれーー。 「なぁ、それよりもう聞いた? ショーヘイの奴、超面白いんだぜ。『アクトピ』繋がりのTwitterで会った人間をさぁ、女だと思い込んでて。会ってみたら7組の糸尾歩だっつー」 「その話はもういいだろ」  健吾が蒸し返してきて、さすがの俺もカチンと来た。  どうして他人のことばかりにこうも、興味津々なのだろう。自分と比較して、間抜けな奴がいれば安心できるのか? 「7組の? へええ、男なのにわざわざ〝アユミ〟で登録してたって? 何それ確信犯? もしかしてそいつさァ、男が好きだったりしてーー」 「おい。いい加減にしろよ」  俺は危うく、拳でテーブルを叩きかけた。    ざわざわする。  みぞおちのあたりから、喉元に向かって何かが迫り上がってくる。怒り、嫌悪、よく分からない。    でも、今この瞬間、思ったんだ。  俺が俺じゃなくなればいいのにって。  サナギがチョウになるみたいに羽化して、まったく別の人間になって、こいつらの目の前から消え去ってしまいたいって。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加