第2章 友達にはほど遠い

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「ご注文はお決まりですか」  無機質な声が会話を遮って、一瞬ひやりとする。    声をかけてきたのはウェイターだった。    そりゃそうだ、オープンしたてで混雑してる時期に、コップ一杯の水だけで居座られたら迷惑だろう。    俺たちはさながら先生に厳重注意された生徒のように、背筋を伸ばして、メニュー表を熟読しはじめた。 「オレはマルゲリータで」 「じゃあ僕はこの、ツナと茄子の……なんちゃらってヤツ!」 「俺は……あ」  注文を伝えようと、顔を上げてウェイターを見た俺は、驚きのあまりメニュー表を落としそうになった。  噂をすれば……(あゆむ)じゃないか!  偶然にもほどがある。というか本当に偶然か。二度目ともなるとちょっと神の御業(みわざ)を疑いたくなる。  一瞬、他人のふりしてやり過ごそうかと思ったが、もうばっちり目が合ってしまった。挙動不審な俺を前に、歩のほうも言葉を失っている。  そして、そんな俺たちの間に流れる微妙な空気を察したのは、勘のいい健吾だった。 「おっと。噂をすればアユミちゃんじゃね?」 「おい、言い方」  まずいことになった。どうまずいかは言い表せないが、とにかく嫌な予感しかしない。   「えっ。もしかして、このヒトが歩っち? まじかー! 超会いたかったよ」  狩野は手を取って振り回さんばかりの勢いで食いつく。   「てかさ糸尾クンさ。ここで何してんの。オレらの学校バイト禁止だよね」  健吾が、やけに突っかかる物言いをする。  いくらなんでも、初対面の相手にこんな態度をとる奴じゃないと思っていたのに、今日の健吾はいつにも増して刺々しい。  対して、歩はあくまでも店員としての冷静さを崩さずに、淡々と答える。 「家庭の事情で学校に申請して、必要と認められたからアルバイトをしてる。別に不正に働いてるわけじゃない。それで、ご注文は?」
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