第2章 友達にはほど遠い

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 早く、早く何か注文しないと。  俺が注文すれば、歩はこのテーブルにいる理由がなくなって、健吾と狩野の好奇の目に晒されることもなくなる。  焦るほどに、メニュー表の文字が滑っていく。 「家庭の事情ってさぁ、もしかして歩っちはケッコー苦労してるヒト?」 「どういう事情だったらバイトが認められるんだ」  狩野の面白半分な質問、健吾の攻撃的な追及。俺にははっきり分かった。先ほどまで俺に纏わりついていた視線が、歩に移ったこと。すなわち、標的が変わったのだということが。  視線を落とした先の文字の羅列が、ぐらぐらと揺らぐ。 「……ご注文は?」  歩の冷たい声音を聞いた瞬間、もうだめだと思った。きいんと高く、長い耳鳴りが響いた。そのために、自分が何を言ったのかよく分からなかった。  けれど俺は確かにこう言った。   「注文はーーしない」  気付けば立ち上がっていた。  ついでに、隣の席の健吾も立ち上がらせる。 「こいつらのオーダーも、全部キャンセルだ」  俺は二人の腕を掴んで、半ば無理矢理カフェを出た。  もしあのままあそこにいたら、健吾と狩野は客と店員という立場を利用して、根掘り葉掘り歩を問い詰めていただろう。  俺はなぜだか、それがたまらなく嫌だった。自分自身を傷付けられるよりも、もっと深い痛みをともなう気がして、いたたまれなくなって、彼らを連れて飛び出して来たのだ。  この行動は自分らしくない。  月嶋翔平というキャラクターは軽率なところがあるけれど、友人たちの〝冗談〟に付き合えないほど空気の読めない人間じゃなかったはずだ。 (ああ、やっちまった……)  上手く両者の仲を取り持つことができれば良かった。けれども自分にその能力がない以上、余計な口出しをすべきではなかったのだ。いつもと同じように、息を殺して時が解決するのを待っていれば、無難にやり過ごせたかもしれないのに。  俺がとった強硬手段は、俺の友人たちを白けさせた。これから先、三人で遊びに行こうという話にもならず、健吾は駅のほうへ、狩野はどこかへ繰り出していった。  俺は重い足取りで、ひとり帰路へついた。
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