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「あと5分くらい、か。さみぃなぁ」
ジャケットのポケットに両手を突っ込む。
ハロウィンが終わった直後くらいから、街はクリスマスの様相を見せはじめた。
駅前ロータリーのでっかいクリスマスツリーは、この時間帯ではまだイルミネーションのきらめきはない。それでも、金銀の球がいくつも吊るされたモミの木はそれだけで華やかだった。
行き交う人の波を目で追い、ため息を吐く。
もうあとちょっとで待ち合わせ時間になるが、彼女は来ない。意味もなくスマートフォンと睨めっこしてしまう。
(まだ、待ち合わせ時間まで少しあるし……)
自分に言い聞かせたとき、俺の隣に誰かが立った。
無意識にそちらを見ると、男物の黒いスニーカーが視界に入る。なんだ、アユミちゃんじゃないのかと、俺は再びスマートフォンに視線を戻した。
しかしどうしても気になって再び隣の人物に目を向ける。
どこかで見た横顔である。
よく見ると、俺と同じ香嶺高校の制服を着ている。
この男子生徒とは、校内のどこかですれ違ったことがあるのかもしれない。名前までは分からない。俺の高校はひと学年7クラスあるから、例え同じ学年だとしても大半の奴とは面識がない。
俺は無意識に短く息を吸い込んだ。
「あのぉ……違ったらすみません。もしかして、同じ学校の人っすよね? あ、俺も香嶺高校で」
隣の男子学生に話しかけたのは、アユミちゃんが来ないかもしれないという不安がピークに達したからだった。
緊張の面持ちで相手の様子をうかがっていると、そいつは表情も変えず、こちらをじろりと睨んできた。
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