第2章 友達にはほど遠い

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 「カフェ&ダイニング trèmolo」の入り口付まで来ると、ゆっくり、ガラス張りの店内をのぞくように歩いた。まだ閉店はしていないようだ。  ドアには、AM11:00〜PM9:00の表示がある。ダイニングなんだから、まだ閉店なわけがなかった。  忙しそうに立ち働くホールスタッフたちの中に、歩らしき姿はない。ため息が白く濁る。  話をするなら、今日中でなければだめだと思って急いで来たのに。  俯きかけたとき、ポンと肩を叩かれた。 「翔平、こんなところでどうした。忘れ物か」  振り返った先にいたのは歩だった。  もうあのウェイター姿じゃなくて、見慣れた学生服に着替えている。   「あ。いや、忘れもんとかじゃなくて」  びっくりし過ぎて、ちょっと声が裏返った。 「歩は? 今帰り」 「うん。冬休みいっぱいはここでバイトして稼ぐつもりだから。開店11時から17時までのシフトにしてるんだ」 「そっか」  良かった、普通に会話ができている。 「さっきは……その、ごめん。俺の友達が感じ悪くて」  友達だけじゃない。俺だって、一瞬だけ健吾たちに日和(ひよ)ろうとした。その罪悪感もろともに頭を下げると、歩は「ああ」と今思い出したかのように言った。 「翔平と同じ3組の奴らだよな? おれ、お前の顔見て気付いたよ。友達だったのか。感じは……確かに悪かったよな。もしかして、それを気にして来てくれた? 別になんとも思ってないから気にするなよ」 「そ……」 「仮に、あいつらが故意におれを侮辱したんだとしても、それは翔平が謝ることじゃないしな?」  一瞬、歩の目がすっと細まって、ピリッと暗い炎が宿った。 「わ、悪い……」 「だから翔平は悪くないって。ああそうだ。ここのカフェさ、開店してから16時までは混んでるんだけど、16時からの1時間はあんまり客来ないんだよな。次は、その時間帯に来いよ」 「え? あ……うん」  何がおかしいのか分からないが、歩は微かに笑っていた。俺をタヌキだと言ったあの日と、同じ柔らかさで。  俺はその表情(かお)を見て、ようやく、心の底から笑うことができた。
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