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「カフェ&ダイニング trèmolo」の入り口付まで来ると、ゆっくり、ガラス張りの店内をのぞくように歩いた。まだ閉店はしていないようだ。
ドアには、AM11:00〜PM9:00の表示がある。ダイニングなんだから、まだ閉店なわけがなかった。
忙しそうに立ち働くホールスタッフたちの中に、歩らしき姿はない。ため息が白く濁る。
話をするなら、今日中でなければだめだと思って急いで来たのに。
俯きかけたとき、ポンと肩を叩かれた。
「翔平、こんなところでどうした。忘れ物か」
振り返った先にいたのは歩だった。
もうあのウェイター姿じゃなくて、見慣れた学生服に着替えている。
「あ。いや、忘れもんとかじゃなくて」
びっくりし過ぎて、ちょっと声が裏返った。
「歩は? 今帰り」
「うん。冬休みいっぱいはここでバイトして稼ぐつもりだから。開店11時から17時までのシフトにしてるんだ」
「そっか」
良かった、普通に会話ができている。
「さっきは……その、ごめん。俺の友達が感じ悪くて」
友達だけじゃない。俺だって、一瞬だけ健吾たちに日和ろうとした。その罪悪感もろともに頭を下げると、歩は「ああ」と今思い出したかのように言った。
「翔平と同じ3組の奴らだよな? おれ、お前の顔見て気付いたよ。友達だったのか。感じは……確かに悪かったよな。もしかして、それを気にして来てくれた? 別になんとも思ってないから気にするなよ」
「そ……」
「仮に、あいつらが故意におれを侮辱したんだとしても、それは翔平が謝ることじゃないしな?」
一瞬、歩の目がすっと細まって、ピリッと暗い炎が宿った。
「わ、悪い……」
「だから翔平は悪くないって。ああそうだ。ここのカフェさ、開店してから16時までは混んでるんだけど、16時からの1時間はあんまり客来ないんだよな。次は、その時間帯に来いよ」
「え? あ……うん」
何がおかしいのか分からないが、歩は微かに笑っていた。俺をタヌキだと言ったあの日と、同じ柔らかさで。
俺はその表情を見て、ようやく、心の底から笑うことができた。
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