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「うん、1年3組。月嶋翔平。聞き覚えない?」
そう問いかけると、向こうは俺の名前を反すうしつつ、首を傾げた。
「ツキシマ。ツキシマかぁ……聞いたことあるような、ないような」
「あーダイジョブダイジョブ。俺も人の名前覚えんの、そんな得意じゃねぇから。別クラスだったら尚更、分かんないよなあ。部活とか、選択科目が被りでもしなけりゃ」
「いや。おれの場合、同じクラスの人間の名前もちょっとあやしい」
「は? さすがにそれはないわ。だってもう入学してから8ヶ月も経つんだぞ? いや待った。今のなし。まぁ、そういうヤツもいるよな」
俺が慌ててフォローを入れると、メガネくんのポーカーフェイスが崩れ、少し柔らかい表情になった。
「自分でもないなと思ってるから、別にいい。そういえば名乗ってなかったな。7組の糸尾だよ。おれの名前」
「へ、伊藤?」
「イトウじゃない。糸に、しっぽの尾でイトオ」
「へえ、なんだか妙な……いや珍しい苗字だな。苗字なんだよな?」
「そう。珍しいってよく言われる。にしても、ええと、月嶋? よく同級生かも分からない人間に話しかけようなんて思ったな。スルーされたらハズすぎるだろ」
「まあ俺も、お前が学校指定の制服じゃなかったら、話しかけようなんて思わなかったよ。日曜日でも制服派なんだ?」
「いや。ちゃんと見えそうなのがこれしかなくて」
「ふうん。今日って、ちゃんと見えなくちゃいけない日なの? 冠婚葬祭……って感じでもなさそうだし。もしかして糸尾くん、彼女か誰かと待ち合わせですかぁ?」
「まあ、ちょっとな……」
言葉尻を濁して目をそらしたのを見て、俺はにやっとした。
「なんだよ教えろよ。別に隠すようなことじゃないじゃん」
平然と質問しているが、もし本当に「彼女と待ち合わせです」と答えようものなら、澄ました顔にアッパーカットをキメてしまうくらいに悔しい。
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