第1章 アユミちゃんの正体

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 『AQUA Utopia』の中で、詐欺に遭ってしまったのだ。  俺にとっては初めてのオンラインゲーム。  まさか、ゲーム内でそんなことになるなんて思ってなかった。  毎日コツコツと発掘した「金鉱石」を、5万ゴールドで買ってくれるというプレイヤーがいた。だからトレード画面を開いて取引に応じた。  しかし、取引が終わって画面を確認してみれば、そこに表示されていたのは50ゴールド。  騙された。  気付いたときにはあとの祭りだった。  必死にかき集めた「金鉱石」の山を一瞬にして失ったのだ。本物のお金じゃない。ゲーム内の通貨であることは分かっている。  だとしても、時は金なり。  俺が発掘のために費やした時間は、何にも変えがたい宝物だったのに。見ず知らずの、通りすがりの人間に台無しにされたのだ。  クラスメイトに相談したら、馬鹿にされるような気がして言えなかった。よく確認もせず交渉に応じてしまった自分が恥ずかしくて、情けなかった。  無性に、誰かに話したい。  辛い気持ちを吐き出してしまいたい。  それで、呟きを投稿できるSNSーーTwitterコミュニティで呟いたところ、親身になって聞いてくれたのが「アユミ@ayumi_spinning.wh」だった。 《それは災難でしたね。以前私も、同じような目に遭いかけたことがありますよ。良かったら私の素材を少し分けてあげましょうか?》  文字の中でも、彼女が気遣ってくれているのが痛いほど伝わってきた。俺はオンラインの中で傷付けられて、オンラインの中で救われたのだ。
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