第1章 アユミちゃんの正体

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 そうして今、俺はここに立っている。  Y駅西口の女性像前。  人通りが少ない場所で待ち合わせるのは、向こうが不安に思うだろうと配慮し、人が行き交う駅前広場を指定した。目の前に警察署があるのも、いざとなったら駆け込めるので安心材料になる。  俺ってなかなかの紳士じゃないか、なんて自画自賛してしまう。  早く来ないかなぁ、アユミちゃん。  待ち合わせ予定時刻から10分が過ぎていたが、それらしき少女の姿はない。  冬の白くて弱々しい日差しを受け止めながら、俺は少しずつ自信を失ってきた。  もしかして、すっぽかされたんじゃないか。   いやいや、アユミちゃんはそんな子じゃない。  じゃあ、待ち合わせ場所が分からないとか?  でも、本当にこの界隈に住んでいるのであれば、これ以上分かりやすい場所もないはずだ。 (最初から一対一で会おうってのが、まずかったのかなぁ……)  女の子なら警戒して当然だ。 (ていうか、もしかして。どこかで俺の姿を見ていて、自分のタイプじゃなかったから回れ右したんじゃ)  想像すると急に手足が冷たくなってきた。  なんの根拠もないただの妄想であっても、悪いほうへ考え出すと止まらない。  可能性はゼロじゃない。何せ月嶋翔平という人間は、どちらかといえば童顔、背はクラスの中では低い方だし、いじられキャラとしての立場を確立しているのだ。  モテるタイプじゃないのは自覚している。
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