第1章 アユミちゃんの正体

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 すん、と隣で鼻をすする音が聞こえた。  糸尾ーーこのメガネ男、まだいたのか。  そういえば、結局こいつは誰と待ち合わせしているんだろう。  待ってる相手が愛しの彼女かどうか、結局答えてもらえなかった。 「なぁ糸尾。お前もずいぶん待ってるよな。待ち合わせの相手、まだ来ないのか?」  手持ち無沙汰で、ついつい話しかけてしまう。 「どうだろうな。分からん。実はすでに来ているかもしれない」  そう答えた彼は、横目で流すように俺を見た。 「え……すでに来てるなら、分かるだろ。お前ふざけてんの」 「ふざけてない。初めて会う人だから、顔も知らないんだ」  嫌な予感した。これは、俺のほうこそ回れ右をするべきかもしれない。と思いつつ、気付けば勝手に口が動いていた。   「初めて会う相手かぁ、そりゃあ楽しみだな。あー……と、お前はその。『アクトピ』なんかやったりしないよな?」 「あくとぴ? なんだそれは」 「だよな、そうだよな。よかっ」 「ああ、『AQUA(アクア) Utopia(ユートピア)』のことか。その略称は初めて聞いたぞ」 「うわぁ待て待て、もしかしてお前の待ち合わせ相手って、ショウ@show.sun2525じゃねぇだろうな」 「よく知ってるな?……ああ、なるほど。やっぱり、月嶋がショウさんだったか」 「あた、当たっちまったぁー! つかやっぱりってなんだよっ。気付いてたんなら早く言えよな」 「いや。おれもさっき〝もしかしたら〟って考えてたところで」 「なんでお前がアユミちゃんなんだよぉお」 「アカウント名は確かにアユミにしてるけど、本名は糸尾歩(いとおあゆむ)なんだ」 「ネカマか!? くっそおおお女の子じゃねーじゃんっ」  俺は天を仰いで叫んだ。
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