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すん、と隣で鼻をすする音が聞こえた。
糸尾ーーこのメガネ男、まだいたのか。
そういえば、結局こいつは誰と待ち合わせしているんだろう。
待ってる相手が愛しの彼女かどうか、結局答えてもらえなかった。
「なぁ糸尾。お前もずいぶん待ってるよな。待ち合わせの相手、まだ来ないのか?」
手持ち無沙汰で、ついつい話しかけてしまう。
「どうだろうな。分からん。実はすでに来ているかもしれない」
そう答えた彼は、横目で流すように俺を見た。
「え……すでに来てるなら、分かるだろ。お前ふざけてんの」
「ふざけてない。初めて会う人だから、顔も知らないんだ」
嫌な予感した。これは、俺のほうこそ回れ右をするべきかもしれない。と思いつつ、気付けば勝手に口が動いていた。
「初めて会う相手かぁ、そりゃあ楽しみだな。あー……と、お前はその。『アクトピ』なんかやったりしないよな?」
「あくとぴ? なんだそれは」
「だよな、そうだよな。よかっ」
「ああ、『AQUA Utopia』のことか。その略称は初めて聞いたぞ」
「うわぁ待て待て、もしかしてお前の待ち合わせ相手って、ショウ@show.sun2525じゃねぇだろうな」
「よく知ってるな?……ああ、なるほど。やっぱり、月嶋がショウさんだったか」
「あた、当たっちまったぁー! つかやっぱりってなんだよっ。気付いてたんなら早く言えよな」
「いや。おれもさっき〝もしかしたら〟って考えてたところで」
「なんでお前がアユミちゃんなんだよぉお」
「アカウント名は確かにアユミにしてるけど、本名は糸尾歩なんだ」
「ネカマか!? くっそおおお女の子じゃねーじゃんっ」
俺は天を仰いで叫んだ。
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