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どうやら。
政府がネコネコ・ボックスの開発に協力した理由は、忙しい国民に少しでも安らぎを与えるため、という名目であるらしい。
今、この国の人口は百億人近くまで膨れ上がっている。一部の人手不足の企業は仕事に追われててんてこまい、過労死者まで出る始末。楽をして生きている人々と、辛い仕事で目が回るような忙しさである人々がごったまぜになって生きているような状況なのだった。
そんな中、ケンマは家でのんびりとニートをしている身である。
父親の遺産がそれなりにあったので、殆ど働かなくても生活できてしまうのだ。ひきこもりではないので、外への飲みに行ったり遊びに行ったりはする。最近はそれも飽きて、ひたすら怠惰な時間を過ごしていたが。
「へえ、ネコネコ・ボックスねえ」
最近はアニメにもゲームにも飽きていたし、合コンなんかにも行かない身としては可愛い女子との出会いもない(合コンやら出会い系の場に行っても、“ニートを養ってくれて、経済力があって、美人で、胸が大きくて、いつでもケンマを最優先してくれる女の子”なんてものはいないと知っているからだ。クソむかつくイケメンなんかが同席して恥をかくのも御免こうむる)。
猫になれば女の子にモテるかもしれないし、この退屈な生活も楽しくなるかもしれない。そう思って、俺はこのネコネコ・ボックスが配置されている遊園地に向かうことにしたのだった。
一緒に行くのは、会社で事務仕事をしているゲーム仲間のヨイチである。
「ネコネコ・ボックスとあわせて出来た、猫化特別休暇制度って知ってるか?」
いつも仕事の愚痴ばかり、サボりたいサボりたいとばかり言っている男が。今日は眼鏡の奥の目をキラキラとさせていたのだった。
「実は僕、本来は今日の午後から仕事なんだけどさ!ネコネコ・ボックスを使って猫になっている間は、全ての仕事が免除されるんだぜ。仕事している間のは、問答無用で特別な有給を取らせて貰えるんだ!」
「うわ、すげえ!猫になっただけで!?」
「癒しのためのボックス、だそうだからな!俺はこのボックスを使うことで、堂々と仕事をサボれるわけだ。でもって」
彼はにやり、と笑った。
「猫化特別休暇は、一日とは限らない。猫になっている間はずーっと適用されるんだぜ。つまり、俺が何日も猫になって自由にふらふらされている間、ずっと有給扱いされて会社からお金が振り込まれ続けるんだ!たまんねーよな!」
「うわ、お前も悪党だなあ!」
「ふふふふふ、僕みたいな優秀な人材をまともに評価せず、クソジジイとクソババアの下で虐げてきた会社へのちょっとした仕返しってわけさ!……お前も、そういう気持ちがないわけじゃねーだろ?」
「まあな」
親父の遺産を食いつぶしながら、食っちゃ寝している自分に母はガミガミと五月蠅い。ケンマもいい加減、あんな母親と家にはうんざりしていたことだ。自分が猫の姿のままいなくなって、少しは心配でもすればいいのである。
確かに猫になったら一日以内に戻ってこいとか、遊園地の外に出るなとか言われているが。そんなルール、実際に強制力なんてないのだ。
「楽しみだなあ、猫になって自由気ままな生活!」
「マジでな!」
ケンマとヨイチはほくそ笑んだのだった。
遊園地は大盛況。ただでさえ人口が増えてレジャー施設はどこも混雑しているところ、今はネコネコ・ボックスの需要もあるから尚更である。
猫になりたい人間は若者から年配者まで数多く存在しているようだった。整理券を貰い、遊園地を遊び尽くしてから行列に並んで、やっと手に入れた“猫に変身する権利”。
ケンマは灰色の猫に、ヨイチは白黒のブチ猫に変身した。
――よっしゃ行くぞー!
二匹はルールを破る気マンマンで、遊園地を飛び出したのだった。
なあに、何日かして飽きたらまた遊園地に戻ってきて、箱に入って戻ればいい。それまでの、自由気ままな猫生活だ!
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