こんな勇者にはなりたくない!

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「まず、履歴書を書く練習をすることだ」 「え」 「どこの学校に行ったかどんなアルバイトをしたかどんな技能があるか出来る限り詳しく、綺麗な字で書く練習をしておけ。詳しく書けば書くほど面接で斜め上につっこまれてメンタル削られる心配しなくてすむぞ。あと字が汚かった勇者希望者は面接に進む前にひらすら字の練習をさせられる。習字百枚やらされる、あれは結構な地獄だ。誤字脱字なんて論外、目を皿のようにして探せ」 「え」 「それから、面接を突破したら最初の契約書はちっちゃな字まで細かく読み込め。それとなく“基本給はゼロ”“任務をこなすごとにレートが上がるが最初の一回目のクリアは総じて100ギル”“死んでも深刻な後遺症が残っても文句言うな訴えるな保険は使えないし保障もしねえからそのつもりで”って普通に書いてあるから、それに了承できるなら契約しろ」 「え」 「それと国王から命令が降りてきたら逆らえない。熱出して寝ていようがそれが法定伝染病にかかってようが妻と離婚調停中で落ち込みまくっていようが逆にバカンス中でリア中爆発してようが、問答無用で空間転移魔法で呼びだされるから気をつけな。ちなみに俺はトイレで踏ん張っている途中で召喚されて大惨事になったぞ」 「それいろんな意味で駄目じゃない!?」 「それと一番最初にギルドから支給され武器は、ひのき棒と鍋の蓋だ。最初のカメレオンとの戦闘で100パーぶっ壊れるぞ」 「ケチりすぎじゃない!?」 「その結果、半年で新人勇者の半分が死亡し、残りのうち30%が一年でやめる」 「ええええええええええ」  真っ青になる少年。俺は彼の肩をぽんぽんしながら告げる。 「それでも少年、勇者になりたいか?」 「……え、遠慮シテオキマス……」  何も知らない被害者を増やすくらいなら、夢を壊す方が百倍マシ。  来月勇者を引退して亡命する予定の俺は、心の底からそう思ったのだった。
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