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普段はカフェスペースがいっぱいになることなんて殆どない。大抵は、自分以外に1・2人のお客がいるだけだ。
『どうしたんですか? 今日。人多いですよね? 日曜日っていつもこうなんですか?』
今日はテーブル席が全部埋まっていた。それから、カウンターにはたまに会う常連さんが1人座っている。
実は、たまたま今日は交代を頼まれて早番だったから来たのだけれど、普段は日曜日にこの店に来ることは殆どないから、もしかしたら、自分が知らないだけでいつもこうなのだろうかと思う。
『いや。いつもはこんなことないんだけどね。ちょっと、先週から…』
『にゃー』
店主の言葉に、重なるように、別のお客の膝に乗っていた猫が身を捩って逃げ出して、俺の足元に駆け寄って、くるくると足の周りをまわりながら可愛い鳴き声を上げた。
『緑』
彼女は緑。緑色の瞳をした黒猫で、鳴き声が高く、なんとも可愛らしい。大人しく、誰にでも懐いて、膝の上に載ってくれるから、動物に興味はあるけれど、触ったことがない。という人にもお勧めできる器量よしだ。
彼女はすぐに挨拶に来ることはない。と、いうのも、物凄く気を遣う子で紅が新規のお客さんの元に駆け付けると、紅を見ていたお客さんの膝に乗ってアフターフォローに回るという細やかな気遣いを見せるのだ。
『ご挨拶に来てくれたの? ありがとね』
紅を抱いたまま、その顎を撫でると、ごろごろと甘い声を上げてくれる。本当にカワ(・∀・)イイ!!。癒される。
膝から逃げられた女性客は不満そうな顔をこちらに向けていたが、店主は謝りもしない。
それもそのはず。ここは猫カフェではないのだ。
あくまで、看板猫がいるカフェ。
あくまで、猫ファースト。
猫好きの店主は猫は商売道具じゃないから、猫カフェではない。猫を自由にさせてあげられないなら、客として認めない。猫が嫌なら来なくていい。という、揺るぎないスタンスを持った人物だった。
そんな店主の考え方も俺がこの店を好きな理由の一つだ。
たとえ、彼女たちに無視されようとも、俺も彼女たちに接客を強要させるつもりなんてない。ただ、そこにいてくれるだけでいい。そうすれば、俺は勝手に来て勝手に癒される。それだけでも十分なのに、たまでも彼女たちが気が向いたときだけでも甘えてくれるなら、もう、これ以上望むものなど何もない。その上、この店のスイーツは極上だ。通わない理由を探す方がむずかかしいくらいだ。
そんなことを考えて、幸せに浸っていた時だった。
『にゃ』
ふくらはぎのあたりをごん。と、突かれて後ろを振り返ると、そこには紺がいた。
ブルーグレイのビロードのような毛並みで、アクアマリンのような澄んだ色の瞳の美猫だ。
この子は、恐ろしく気まぐれで、気難しい。気に入らなければ、視界にすら入ってこない。気に入られたとしても、ネコパンチやシャーは当たり前。
けれど、たまに帰り際に帰らないで。とばかりに、行く先を塞いだり、しっぽの先を足に巻き付けてきたりと、そのツンデレぶりにファンはメロメロになってしまう。
その紺が頭をぶつけてくるのは、ものすごく機嫌がいいときの最大級の愛情表現だ。
もう、それだけで、抱きしめたくなるほど愛らしい。
『紺。今日はご機嫌だね?』
す。と、手を伸ばすと、紺はぷい。と、顔を背けて行ってしまう。けれど、彼女の向かう先は、俺が店主に勧められたカウンター席の脇のお茶の楽しみ方の本が並んだ書棚の中の一角で、彼女の定位置だ。俺が座る予定の席の隣だから、まるで、早く来なさい。と、言われているような気になってしまう。
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