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『池井さん?』
考え込んでいると、鈴が俺の顔を覗き込んでいた。
『図々しかったですか?』
心配そうに眉を寄せた鈴の瞳の色は少し青く見えた。昼から夜に変わっていく、どちらつかずの合間の時間の、空の色だ。綺麗だと思うのと、罪悪感が同時に心の深いところから、湧き上がってくる。
『ちがう。そんなことない』
だから、俺は慌てて断言した。
『ただの知り合いだって言われると思ってたから、驚いた。歳離れてるし。でも、友達。うん。ありがと』
もやもやしたものは、とりあえず心の端に追いやる。けれど、それは簡単には消えてくれない予感がした。
『そうか、友達、ね』
鈴の顔をちらり、と見てから風祭さんは少し意味ありげに言う。その視線に鈴は、居心地の悪そうな顔になった。まるで、隠していたイタズラが見付かった子供みたいだ。
隠したいイタズラ。
心に浮かんだ言葉は妙にしっくりとはまり込んで、ああなるほどと、納得してしまった。
俺は隠しておきたいコトなのかな?
それがどういう意味なのかは、まだ、わからない。けれど、そう思われているのは、明確に不快。いや、悲しかった。
『池井さん? なにかありました? 体調わるいんですか?』
鈴の気遣いの視線が申し訳なくて、俺は紅に視線を落とした。そうすると、まるで心配するかのように、見上げる紅と目があう。紅はじっと俺の顔を見てから、にゃあん。と、口を動かした。
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