【真鍮とアイオライト】7th 甘味と猫とほうじ茶と

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 葉のバカ。わかってるくせに、池ちゃんにいじわるすんにゃ。  確かに。口はにゃあん。と、動いていたんだ。それなのに、聞こえた声は、違っていた。可愛らしい少女のような声で確かに聞こえた。俺にも理解できる言葉が。  葉は年増だから、菫の若さに嫉妬してるんにゃ。  同じ年頃の、けれど、さっきの声より少し落ち着いた声の方へ視線を向ける。こには、ブルーグレイのビロードの毛並みの紺が本棚の本と本の隙間に挟まっていた。顔を両手の上に預けて、面白くなさそうにぱたぱたと、しっぽで本棚を叩いている。さっきまで、あんなにご機嫌だったのに、不機嫌を隠そうとしないのは、何が原因なのだろう。まさか、俺の態度がおかしくなったから?  いや待て?  てか、なんだ? これ。  さっきまでのもやもやなんて、一瞬で吹き飛んでいた。  当たり前だ。状況が異常すぎる。  葉は鈴のことを心配してるだけにゃの。昔から弟みたいに可愛がってたの知ってるでしょ?  二人(?)より、大人っぽい妙齢の女性のような、それでいて少し高めの声が足もとでする。最早、その声がしてくる方向に誰(?)がいるのかは、想像に難くないが、見るのが怖い。  それでも、もしかして。と、辺りを見回すけれど、さっき怒られた女子高生風のグループも、それを見ていたほかのテーブルの女性客も、声のトーンは低く、こんなに近くで聞こえるような感じではない。  嘘。葉は自分がシロとうまく行かないからって、菫に意地悪してるだけ。  また、紺の方から声が聞こえる。  紺の口がにゃあ。と、動く。  え? これって、もしかしたら…。  冷静に考えて、整理してみた。  紅の口がにゃあ。と、動いて、言葉が聞こえた。  紺の口がにゃあん。と、動いて、言葉が聞こえた。  緑の口がにゃあ。と…。  他には誰もそんな近くでしゃべる人はいない。  他には誰もその言葉に反応しない。  順序だてて考えると、恐ろしい答えに至ってしまった。
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