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シロちゃん。葉のことスキスキ〜なのににゃあ。
紅がそう言うと、同時に、がしゃん。と、大きな音がした。あち。と、声を上げて、風祭さんが急須の蓋を拾う。その顔がやけに赤い。余程熱かったんだろうか。
それを言ったら、鈴だって、菫のこと…。
今度は紺が言う。それと同時に紺との間に割り込むみたいに、鈴が俺の前に立った。
『お…お待たせいたしました』
手には、さっき風祭さんに頼んだほうじ茶のシフォンの皿と陶器のタンブラーが載ったトレイを持っている。その声に遮られて、紺の言葉は聞こえなかった。
なんて、言おうとしたんだろうか。続きが聞きたいような。怖いような。
紺。やめなさい。そういうことは本人以外は言ってはだめにゃ。誰が聞いてるかわからないでしょ?
緑が窘めるように言う。視線を下に向けると、俺の方をちらり。と、見て、笑った。ような気がした。
と、言うよりも。今、完全に紺。って、言ってた。信じたくないけれど、本当にそう言うことらしい。とうとう、こんな会話まで聞こえるようになってしまった自分が心配になってくる。きっと、自分の脳には致命的な欠陥があるのだろう。でなければ、猫がしゃべるなんてありえない。
まあ、人に見えないモノが見えている時点で、充分におかしいんだから、こんなことがあっても、最早受け入れてしまえる。自分の脳に欠陥があるなら、当たり前のことなんだ。と。
だって、本当のことじゃにゃい。葉がシロに大切にされてるのも、鈴が大切な人をみつけ…。
がしゃん。と。また、言葉が遮られた。カウンターに置こうとしたタンブラーを鈴がひっくり返したんだ。
『…す。すみません』
慌てて風祭さんが布巾を渡してくれて、二人でわたわた。と、零したお茶を片付け始める。なんだか、二人とも、顔が赤い。
『池井さん。お茶、かかりませんでした?』
『すぐに、入れ直すよ』
鈴と風祭さんの言葉はほぼ同時だった。妙に息ぴったりな二人を見ていると、また、あのもやっと感が戻ってくる。慌ててるのも、俺に知られたくない二人の秘密があるんじゃないかなんて、勘ぐってしまう。
でも、池ちゃん。可哀想だにゃ。きっと、鈴が葉と仲がいいって、誤解してるにゃ。
誤解。とは、どういう意味だろうか。と、考えてから、俺はため息をついた。そもそも、俺だけに聞こえるこの声が、ちゃんと現実と整合性の取れた会話である保証なんてない。というよりも、俺の脳の勘違いなんだから、整合性がとれているわけがない。もし整合性がとれていたとしても、ただの友達の俺に、鈴が隠したいことなんて、多分。ない。
ただの従兄弟のくせに。
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