26.メテオ インパクト

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26.メテオ インパクト

《中央アジア、カザフスタン、カスピ海沿岸の町》 住民が地下シェルターに避難しており、街を歩いている人の姿はない。 中央の広場には数台の三脚に設置されたテレビ局のカメラが上空に向けられて並んでいる。落下予測地点から一番近くにある街ということで、 カザフスタンの主要テレビ局が避難する前に大型のバッテリーに繋げて設置していったものだ。この映像は、YouTubeをとおして全世界に生配信されており、現在の同時接続の視聴者数は5000万人を超えており、世界中がカザフスタンの上空を見守っている。 しかし、空にはただ静寂が広がっていた。どこか遠くから聞こえる風の音だけが、この静まり返った街に響いている。カメラのレンズは一点を凝視し、そこには誰もが息を潜めて待つ、あるべき未来の影が映し出されているかのようだった。 「本当に来るのだろうか…」 シェルター内で、ある女性が呟いた。彼女は震える手でスマートフォンを握りしめ、リアルタイムで配信されている映像を見つめていた。その映像は、彼女たちが避難する前に見た街並みと何も変わらないように見えた。だが、心の中では不安と恐怖が渦巻いている。 「大丈夫、予測ではここに落ちるはずなんだ。だからみんな避難したんだろう?」 彼女の隣に座る男が、彼女を安心させようと声をかけたが、その声にも不安が滲んでいた。シェルター内の他の住民たちも同様にスマートフォンやタブレットを手に取り、外の様子を確認していた。だが、どれだけ見ても状況は変わらず、空に異変は見られなかった。 一方、地上の中央広場に設置されたカメラたちは、黙々とその役割を果たし続けていた。彼らの視線の先には、ただ星空が広がっているだけだ。しかし、世界中の視聴者たちは、この静けさの中に何かを感じ取ろうとしていた。 そして、突如として異変が訪れた。画面の中の空が、一瞬にして閃光に包まれたのだ。カメラが自動的に明るさを調整し、再び映像がクリアになると、そこには巨大な火の玉が写し出されていた。その火の玉は、音もなく急速に地面に向かって落ちてきていた。 「来た…!」 シェルター内で誰かが叫び、その声は瞬く間に全員の耳に届いた。全員が一斉に画面を凝視し、次の瞬間が訪れるのを待った。 火の玉は、ますますその速度を増しながら地表に近づいてきた。その炎の中には、未知の物質が光り輝いているのが見えた。それはまるで、宇宙の深淵からやってきた神秘そのものだった。 そして、ついにその瞬間が訪れた。 「くそっ、映像が切れた!」 それは、この男の最後の言葉となった。 映像が切れた直後、火の玉が地表に衝突し、地表からかなり深いところまで地面をえぐり、大量の土砂を空中に巻き上げていく。 地表に衝突した火の玉は、瞬く間に巨大なクレーターを形成し、その衝撃波は周囲数百キロメートルにわたり地面を揺るがした。上空に舞い上がった土砂と瓦礫は、まるで灰色の雲のように空を覆い、日光を遮断して中央アジア全体を薄暗く染めた。数秒後、猛烈な音が周辺に響き渡り、その音波はさらに遠くへと広がっていった。 衝撃波は、衝突地点から数百キロメートル離れた地域にまで到達し、家々の窓ガラスを粉々に砕き、建物を揺らした。遠くのシェルターにいた人々も、襲ってくる巨大地震のような揺れに驚き、地面に這いつくばるしかなかった。ユーラシア大陸全土を、ただただ恐怖と混乱が支配していた。 衝突によって発生した土砂と瓦礫の雲は、数時間後には地球全体に広がり始めた。上空高く舞い上がった微粒子は、風に乗って遠く離れた地域にまで運ばれていく。これにより、地球の大気は急速に曇り、一夜明けて朝になっても太陽光が地表に届きにくくなった。昼間でも薄暗く、夜は一層暗闇が深まった。
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