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それからしばらくして、夕美に子どもが出来た。 瑠奈と夕美はファミレスでコーヒーを飲んでいた。 「夕美、おめでとう」 「ありがとう、瑠奈」 夕美の左手の薬指に指輪が嵌められていた。 「結婚も悪くないもんだね」 ミルクを入れながら夕美は微笑みながら言った。 「結婚は私には縁がない話だなー」 テーブル席の少し広めのソファに両肘を置き、天井を仰いだ。 「瑠奈の多趣味が私は羨ましいな。私は本を読むことくらいしかまともな趣味ないから探しているんだよね」 「興味持ったらとりあえずやれば良いんだよ。私、今は演劇に興味持ってオーディション受けてるんだ」 「年齢とか大丈夫なの?」 「まあ、私が最年長になるときとかあるよ。でも、私より年上の人もオーディション受けているから、やっぱり何かを始めるのに年齢は関係ないのかなって」 「そっか。私は今とくにしたいことないかな。瑠奈と定期的に会えれば、それで充分」 夕美は大人になりきれていない少女のように頬が赤らんだ。 「それでも良いよ。ゆっくり変えていけばいいんだよ」 夕美は思わず瑠奈の手に自分の手を重ねようとした。 そのとき、ちょうど店員がやってきた。 「ご注文のカルボナーラスパゲッティとハンバーグランチセットAになります」 瑠奈は注文したハンバーグランチセットAを自分の方へ引き寄せた。 それが夕美には自分の手を否定したように感じ、胸がチクりと痛んだ。 もちろん瑠奈にはそのような意味はない。 「瑠奈……私は何を変えていけばいいの?」 「うーん? 私と会わないようにしたりとか」 夕美は絶句した。 「そんなの良くないじゃない……」 「今こうして会ってるのだって浮気になると思うけど」 「瑠奈に会えないなら私生きてる意味がない」 「別に今すぐにじゃないよ。ただ、私はもう夕美を親友という目では見られないんだ」 瑠奈はボールペンでメモに何かを書き、夕美に渡した。 『この後ホテルに行こ』 夕美はメモと瑠奈を交互に見た。 「私は夕美ともう親友でいたくないんだ」 瑠奈は夕美の左手薬指に嵌められた指輪を隠すように自分の左手を重ね合わせ、優しく握りしめた。                                了
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