根なし草のカデンツァ

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 エイズワースは頷いて、後ろを歩く同行者にアゴで示した。 「ローゼント、この草むら撮っといてくれ。畑で農作業してる村人も入るよう、映えるアングルでな」 「はい、先輩」  まだ若い同行の男──ローゼントは言葉少なに、背嚢から器具を取り出し、組み立て始めた。  折り畳みの三脚を伸ばし、人の頭ほどのサイズをした四角い箱を載せる。箱の側面の一つには穴が空いていて、そこによく磨いた聖霊石を取り付けた。その左右を両手で覆い囲むようにし、ローゼントは静かに瞑目する。  手のひらから魔力が伝い、箱に刻まれた紋様がかすかに明滅する。そしてパシュン、と空気が抜けるような音とともに、聖霊石が閃光を放った。  目を開けて、彼は三脚と箱の位置を少し調整する──その隙に、少女が話しかけてきた。 「知ってるわ、それ! 現実を紙に焼き付ける焼影機ってやつでしょ? 一部の貴族に伝わってきた魔法を、誰でも簡単に使えるようにしたんだって聞いたわ。ねえねえ、私を焼いてよ!」  人懐っこい少女に構いもせず、ローゼントは仕事を黙々とこなす。助け舟を出すように、エイズワースが少女に笑いかけた。 「私を焼いて、なんて物騒だなぁ。帝都じゃあ、『私を撮って』って言うんだぜ」
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