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「ちがうもーん」少女……マーヤも腕を振って応える。「帝都の雑誌記者さんに売りコミ中なの! 未来の歌姫をよろしくねって!」
夫婦は朗らかに笑って、すぐ仕事に戻った。マーヤは胸を反らして、自身満面の笑みを記者に向ける。
「あたしが帝国聖劇団のスタァになったら、おじさんに書かせてあげるわ。楽しみにしておくことね!」
「ははっ、そいつぁ光栄の極みだね」
そつなく返す彼をよそに、マーヤは山の稜線に太陽が触れたのを見て、あっと声を上げた。
「いっけない、もうリハーサルの時間! 遅れたらばあ様に怒られちゃう……あたし行かなきゃ。じゃあね、おじさん」
「え? おいおい、こっちの案内は──」
エイズワースが言い終えるより先に、マーヤは走り出して、肩越しに振り返る。
「もう終わった! ばあ様の館、次に行った村の中心部、それからここらみたいな畑! この村──ディアデラシネアのそれがだいたい全部よ! 残るは……」
マーヤはステップでも踏むように振り返り、
「明日の白角祭をお楽しみに! 未来の歌姫の初舞台、見逃さないでね」
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