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そう言って、あっという間に道の向こうまで駆けて行った。
残された記者はキャスケットを振ってそれを見送り、相棒に笑いかける。
「いやあ、いい時期に来たもんだな俺たちも。白角祭……春の到来を祝い、豊作を祈願する祭、か。あのお嬢さん、歌はなかなかだし、こりゃ本当に将来は大スタァになったりしてな」
「──いい加減にしてください」
景色を眺めていたローゼントは、そこでようやく言葉を返した。
「悪い癖ですよ、先輩。仕事以外にかまけるの」
「お前だって悪い癖だぞー、いつもそうして無愛想で。それで必要以上に怖がられて、やりづらくなるんじゃねぇか」
「……それは」
痛いところを突かれ、ローゼントは押し黙る。エイズワースの相棒になって日の浅いこの青年は、まだ馴染めていないのだ。理想と遠く離れた、日陰ばかり歩くこの仕事に。
ふ、と柔く笑って、相棒の背を軽く叩く。
「まぁ、わからんでもないさ。……羨ましかったんだろ、あのお嬢さんが」
「そんなことは、」
ない──とは続けず、ローゼントは視線を逸らした。
「ただ、思っただけです。持っていることに気付かぬ者には、所詮何も見えぬのだと」
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