ゴエモン

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「い、し、か、わ」  調べものをしたいといってお母さんにスマホを借りた。石川、と打ったあとで、そういえばゴエモンってどういう漢字なんだろうと指を止める。ごえも、まで打つと、予測変換で五右衛門と出てきた。  五右衛門? これじゃあゴウエモンじゃない。右はいらないんじゃないの。  試しに右を消して石川五衛門で検索してみたら、もしかして石川五右衛門ではありませんかとやんわり訂正された。へえ、右があっていいんだ。日本語ってへんなの。  どれどれ。検索のいちばん上に出てきたサイトをタップする。  安土桃山時代の盗賊の首長。文禄3年に捕えられ、京都三条河原で煎り殺された。  ぶん……なんて読むんだろう。録音の録に似ているから、ろく、かなあ。煎り殺す? これも読めないなあ。煎り殺すってどうやってやるの。  そんな疑問はさておき、盗賊の首長という一文に目が吸い寄せられる。 『じっちゃんは、同僚の金を盗んだって疑いをかけられたんだ。理由は、石川五右衛門の子孫だから。そんな理由じゃあもちろんすぐに疑いは晴れたけど、それでもじっちゃん、会社にいづらくなって、辞めた。定年まであと一年だった』  まっ平らな口調でそう語ったゴエモン。なんていったらいいかわからなかったわたしは、ふうん、そっか、とだけ返した。
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